3話
読んでくださりありがとうございます。
昼の講義室は、眠気のためにあるような空間だった。
教授の声が遠くで響いて、ノートに書く文字がゆがんで見える。
仁が隣であくびをして、
広大は机に突っ伏してた。
「お前ら、聞く気ゼロだな」
翔琉が小声で言うと、仁が笑った。
「聞いてんだよ、ちゃんと」
「どこまで?」
「……一ページ目」
「それ“聞いてない”だろ」
前の席の女子が笑いをこらえて肩を揺らした。
それが少し恥ずかしかった。
講義が終わると、仁がすぐ立ち上がった。
「おい翔琉、昼どこ行く?」
「カレー。金ない」
「またカレーかよ。もうカレーの人じゃん」
「いいだろ別に」
広大が後ろから伸びをしながら言った。
「俺、今日ゼミサボるわ」
「また?」
「眠い」
「理由、子どもかよ」
仁が笑って、広大の肩を叩いた。
「お前、バイトの金いつ返すんだよ」
「今度。たぶん」
「“たぶん”てなんだよ」
「たぶんはたぶんだよ」
翔琉は笑いながら、
それでも少しだけ腹の奥がざらつくのを感じた。
笑ってるのに、なんか冷めてた。
昼、学食の席。
仁がスマホを見せてきた。
画面には女の子とのツーショット。
「昨日撮った。可愛いだろ」
「……まあ、うん」
「“まあ”ってなに。“うん”ってなに」
「可愛いって」
「もっとこう、“やべぇな”とかさ」
「いや、普通に可愛いよ」
仁が少し得意げに笑った。
「マジで最近、毎日楽しい」
「へぇ」
「お前もアプリ入れろって。マジ出会えるから」
「うーん……」
翔琉は適当に相づちを打ちながら、
カレーをかきこんだ。
味は昨日と同じ。
多分、明日も同じ。
放課後、仁と別れて一人になった。
校舎の裏のベンチに座ると、風が少し冷たい。
ポケットの中のイヤホンを取り出して、
久しぶりに音楽を流した。
ギターのイントロ。
どこかで聴いたことのある曲。
高校のとき、部室で流してたやつだ。
サビの手前で、音を止めた。
なんか、聴きたくなくなった。
夜のバイト。
閉店間際、店長の川原がコップを拭きながら言った。
「島倉、明日も入れるか?」
「入れます」
「悪いな。人が足りなくて」
「全然」
川原はそれだけ言って厨房に戻った。
翔琉は皿を洗いながら、
水の音をぼんやり聞いてた。
その音が、
自分の中で“何かの代わり”みたいに響いてた。
帰り道、赤信号の前で止まる。
ヘルメット越しに、遠くからライブハウスの低い音が聞こえた。
ベースの音。
それだけなのに、
なぜか心が少しだけざわついた。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
どうでしたか?
少しでも楽しんでもらえていたら嬉しいです。




