2話
読んでくださりありがとうございます。
大学の帰り、コンビニの前で立ち止まった。
財布の中には二百円ちょっと。
缶コーヒーを買うか、あきらめて帰るかで少し迷う。
「……やめとくか」
缶の並ぶ棚を横目に、店を出た。
夜風が少し冷たい。
春と夏の間みたいな気温。
原付きのエンジンをかけた瞬間、
スマホが震いた。
仁からだった。
『明日、授業サボって遊ばね?』
すぐに返信を打つ。
『無理。バイトある。』
『真面目かよ』
画面を閉じてポケットに戻す。
バイトがあるというより、
ただ家にいてもやることがないだけだった。
アパートに着くと、階段の電球が切れてた。
二階まで上がる間、足元が少し見えない。
部屋のドアを開けると、
昨日のままの部屋の匂いが残ってた。
机の上にはギターのケース。
いつ開けたか覚えてない。
ほこりが薄く積もってる。
その横に置いたスマホが、
また光った。
今度は母親からだった。
「元気? ごはん食べてる?」
文章が短いほど、心配してるのがわかる。
でも、返信は後にした。
なにを書けばいいかわからない。
夜の十時。
バイトに行く準備をして原付きを出した。
ラーメン屋の前まで来ると、
店の前に張り紙が増えていた。
『次のライブ出演者募集中』
ラーメン屋の隣にあるライブハウスのポスターだ。
今まで何度も見てきたのに、
その日はなぜか目に入った。
赤い文字と、黒いギターのイラスト。
「ライブ」って単語が、
少しだけ頭の奥で響いた。
厨房に入ると、いつもの匂い。
ネギの青い匂いと、スープの湯気。
店長がいつもの調子で言う。
「おう、島倉。皿、溜まってるぞ」
「はい」
皿を洗う音のリズムが一定になる。
その奥でテレビの音が聞こえる。
女性ボーカルが歌ってた。
“君の声が聞こえる”
その一節だけ、
やけにクリアに耳に残った。
夜、店を出た。
空は少し曇っていた。
帰り道の信号が赤から青に変わる。
ヘルメットの中の呼吸が曇って、
その曇りが一瞬で消える。
なんとなく、
その繰り返しを見ていた。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
どうでしたか?
少しでも楽しんでもらえていたら嬉しいです。