船上の戦い
王命を受けたフリードたちは、火の国ヴァルガンから近い、水の国エリアスを目指す。
エリアスに入国するには船旅が必要になる。
そのため、フリードはヴァルガンとエリアスを繋ぐ港町に着いた。
「船、出せねえのかよ」
フリードたちに難関が立ちはだかる。
エリアスへ向かう船が止まっているからだ。
「今日だけでなく、明日も明後日も出向しないみたいね」
「天候も良くて、波も穏やかなのに」
シャーリィは傍にあった出航予定の看板をみながら、ティニアは空と波の様子をみながらそれぞれの意見を述べる。
「どうして出せねえんだよ、おっちゃん!」
フリードは出航できない理由を町の人に問う。
「それは、エリアス国内の魔物が活性化してるからだよ」
「活性化……」
「エリアスの魔物は海の中に潜んでいてな……、穏やかな天候でもあぶねえんだ」
魔物の生態系は各国で違う。
火の国であるヴァルガンは陸上、水の国であるエリアスは水中に潜む。
「海中の魔物は刺激しなければ大人しいはずじゃ――」
エリアスの魔物たちは海深い場所で暮らしており、人間と棲み分けが出来ていたはず。
ファイエンが海の魔物たちの特徴を告げると、男は「そうなんだがな……」とため息をつく。
「沢山の船が魔物に襲われ、沈んだ。ギルドに討伐依頼を送っているが、惨状を知ってるヤツらは依頼を受けてくれねえ」
港町の住人たちは解決しない問題に頭を悩ませている。
「だってさ、どうする? リーダー」
男の話が終わり、シャーリィがフリードに話をふる。
「そりゃ、決まってんだろ」
(海の魔物を倒さないと、エリアスへ進めない)
ゲームでも港町のイベントは発生している。
これから襲ってくる魔物たちは、ファイエンがパーティを組んでから初めてのボス戦。
各キャラクターのレベルを上げ、スキルを振り分けてないと簡単に負ける難易度。
今のパーティの実力で、ボスを倒すことができるのだろうか。
不安はあるが、挑まなければエリアスへ進めない。
「おっちゃん、俺たちが魔物を蹴散らしてやるぜ!!」
フリードは堂々とした態度で男に海の魔物の討伐を宣言する。
☆
フリードが魔物たちの討伐宣言をしてから数時間後。
フリードと一行を乗せた、エリアス行きの船が出航する。
久々の出航だというのに、船員たちは魔物に怯えている。
フリードたちは、船首に立ち魔物の襲撃に備えていた。
「海の魔物が人を襲うようになったのは――」
「魔王の配下が関係しているだろうね」
フリードが疑問を口にすると、隣にいたファイエンが答える。
「海上では無敵なんて、向こうは思ってるだろうけど」
ファイエンはティニアを見る。
ティニアは遠慮がちにペコリとファイエンに頭を下げる。
(ティニアは回復魔法の他に――)
ティニアに期待する理由をゲーム知識のあるフリードは知っている。
「ティニアは水を操作する魔法が使える。これがあれば、海の魔物たちと戦えるはずさ」
「海上で使ったことがないので……、ファイエンの役に立てるか不安ですが」
「頼りにしてるぜ、ティニア」
フリードが話しかけると、ティニアはぷいっとそっぽ向き、無視される。
(ファイエンの時は普通なのに、僕が話しかけると機嫌悪いんだよな)
フリードはティニアの態度の変化を気にする。
態度からして、ティニアはフリードのことをよく思っていない。
考えられる要因として、火の勇者の件だろう。
(ゲームだとティニアはファイエンに素直で愛嬌があるから、人気キャラだったんだけどな)
前世のフリードもその内の一人。
好きなキャラクターに露骨に嫌われるのは正直キツイ。
「兄ちゃんたち、そろそろだ!!」
船長がフリードたちに声をかける。
もうじき船がヴァルガンとエリアスの国境を超える。
穏やかだった海が揺れる。
荒波と共に海中から海の魔物たちがフリードたちの前に現れた。
「何隻も沈めてやったのに、性懲りもなくやってきたぜえ」
波に乗り、現れたのは槍を持った魚人の集団。
後方には船ほどの大きさの巨大なイカがいて、そいつが足を叩くことで波を発生させている。
フリードたちはそれぞれ武器を構える。
「雑魚がうるさいわね!!」
シャーリィが杖に魔力を込める。
「ストームコール」
途端、晴れ晴れとした天候が一転、雲に覆われる。
「天候を悪くしてもオイラたちには無意味だ」
シャーリィの魔法の効果に魚人たちがげらげらと笑う。
「ティニア……、いいわね?」
「はい。お姉さま」
シャーリィが合図を送ると、ティニアが魔法を使う。
「なっ、波が言うことを聞かねえ!」
魚人たちが乗っている波が、一か所に集まる。
制御を失った彼らは一塊になり、大きな的になる。
「エレクトロバースト!!」
シャーリィが次の魔法を放つ。
悪天候の雲から、轟音の雷が発生し、それは魚人たちを狙ったのように落ちた。
(シャーリィは広範囲の攻撃魔法が得意。魚人たちを蹴散らすのに適役だ)
雷で感電した魚人たちは、ポタポタと海の中に沈む。
船が転覆しそうな大波は、ティニアの操作魔法で真っ二つに割れ、その中央を船が通る。
「二人ともすげえ!」
「ふふん、もっと褒めてもらってもいいのよ」
フリードが二人を褒めると、シャーリィが上機嫌になる。
「……」
ティニアはフリードを睨み、何も答えない。
「フリード、安心するのはまだだよ」
ファイエンがフリードを諭す。
四人の視線の先には、巨大なイカがいる。
こいつを倒さなければエリアスに行けない。
「あたしの雷魔法でも倒せないの!?」
「いや、シャーリィの魔法は効いてる」
「動きが鈍くなってる。でも、アイツにはそれくらいのダメージしか与えられねえ」
「……そう」
「ここは俺とファイエンに任せてくれ」
「ええ、サポートする」
シャーリィはフリードとファイエンに魔法をかける。
フリードとファイエンの身体が宙に浮く。
フリードが手足をばたつかせていると、ファイエンが「シャーリィの補助魔法」と告げ、宙を蹴る。
ファイエンの真似をすると、地を駆けているように前に進む。
「あたしから離れると制御が効きにくくなるから気をつけなさいよ」
「おう!」
シャーリィの忠告を聞きつつ、フリードは船首を飛び越え、海の上に浮く。
「フレアブレード!」
フリードは剣に火の力を込め、全力で振り、火の刃を巨大イカに向けて飛ばす。
(ファイエンが使ってた技。これで――!!)
ゲームのムービーではこの攻撃で、巨大イカを倒していた。
フリードは勝利を確信したのだが――。
「っ!?」
炎の刃は巨大イカの胴体に直撃した。
しかし、胴体に少しの切り傷がついただけで、トドメにはならなかった。
(僕の攻撃が効いて……、ない!?)
予想外の結果に、フリードは驚く。
フリードの頭上が暗くなる。
見上げると、巨大イカの足があった。
(潰される!)
避けるの間に合わない。
剣で受け止めきれるかと嫌な汗が流れる。
巨大イカの足がフリードを叩き潰そうとしたその時。
ファイエンがフリードを襲う足を斬り落とした。
その直後、フリードの身体が動いてもいないのに、ファイエンの方へ引き寄せられる。
「ファイエン、シャーリィ、ありがとな」
「えっ!? ええ……」
突然身体が動いたのは、シャーリィのサポート魔法のおかげだと思ったフリードは彼女に礼を言う。
シャーリィは驚いたような返事をしたが、気のせいだろう。
「あいつに俺の力が通用しねえ」
ゲームでは倒せていたのにとフリードは不思議がる。
「……相性の問題かな」
フリードの疑問をファイエンが答えた。
「あいしょう?」
「火属性の魔法は水属性の魔法に弱い。火の勇者の力は水の魔物相手だと威力がガクンと下がっちゃうんじゃないかな」
「うそだろ……」
「でも大丈夫。君には”筋力を上げる秘技”が使えるから」
「”ブレイブビルド”。火の勇者の秘技だな」
「僕のはただのパワーアップの技だったけど、火の勇者である君なら別物さ」
「わかった。それをあいつに叩きこんでやる」
「イカの足は僕に任せて」
短い作戦会議を終え、フリードとファイエンは巨大イカに挑む。
フリードは剣ではなく自身に力を込める。
ブレイブビルド。
筋力を極限まで上げる、火の勇者にしか使えない秘技。
(ファイエンの場合、攻撃力を二倍にする効果だったけど……、フリードの場合はどうなるんだろう)
フリードは秘技の威力がどんなものかワクワクしていた。
「よしっ」
全身に力がみなぎる。
「じゃあ……、いくよっ」
ファイエンの合図と共に、フリードは巨大イカに突進する。
七本の足がフリードに襲い掛かるも、それらはファイエンによってスパスパ切断される。
「うおおおおお!」
フリードは声を上げながら、巨大イカの頭部を斬る。
通常の力であれば、小さな切り傷を負わせるくらいだろう。
それが、ブレイブビルドにより、巨大イカの堅い骨を砕き、頭部が真っ二つになった。
「え!?」
思った以上の力が出たと攻撃をしたフリードが驚く。
頭部が真っ二つになった巨大イカは海の中へ沈んでいった。
「勝った……」
フリードは小さな声で勝利を呟く。
フリードの身体はシャーリィのサポート魔法により、海上から船首へ戻る。
船にフリードが着地した瞬間。
「うおおおお、海の魔物を倒したぞ!!」
「さすが火の勇者御一行!」
「このままエリアスまで突っ走るぜ」
船員たちが勝利の雄たけびをあげ、士気が一気にあがる。
「やったね、フリード」
海の魔物に勝利し、水の国エリアスに入国できる。
ファイエンがフリードに声をかけたところで、勝利を実感する。
(ゲームと全然違う倒し方だったけど、勝ててよかった)
予想外のことが起き、ヒヤッとしたが巨大イカを倒せてよかったとフリードは安堵する。
「あたしの攻撃魔法とティニアの水の操作があってこその勝利よ!」
シャーリィは船員たちに自身とティニアの戦果を自慢していた。
船員たちの賞賛の言葉を浴び、シャーリィはご機嫌だ。
「お姉さまのおかげ――」
ティニアがシャーリィに話しかけた直後。
バタン。
ティニアが倒れた。
次話は11/18(火)7:00に投稿します。
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