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第2話 一年後

 一年の間、町医者をする傍ら藩医として江戸屋敷へと参じる叔父が、町屋敷を開けた日には、一人で町人の診察をし、椋之助は過ごした。ただし家事、こと料理に関しては、お(かね)という老齢の女中に任せきりだ。お金には、もうすぐ二人目の孫が生まれるらしい。


「椋之助、少し話がある。ご家老のところへ一緒に行こう」


 その日、江戸屋敷から帰宅するなり、凌雲が言った。丁度町医者としての仕事が一区切りしていた椋之助は、小さく首を傾げる。


「なにかあったんですか?」

「兄上のところで話すことにする。さぁ、急ごう。木戸が閉まる前に帰ってこなければな」


 凌雲はそう述べると外に引き返したので、慌てて椋之助も後を追いかけた。

 二人で惣右衛門のもとへと向かう。

 案内された部屋で、椋之助は正面に座る老齢の父と、隣に座す叔父を交互に見た。兄の姿はない。


「凌雲、もう話したか?」

「いいえ、まだです」

「そうか」


 惣右衛門が頷いてから、視線を揺らして椋之助を見る。頷き返して凌雲もまた、椋之助へと視線を向けた。すると凌雲がゆっくりと口を開く。


「実は殿が斗北に戻られる時、次は俺も一緒に戻ることになったんだ」


 凌雲はそう述べた。基本的には江戸で暮らし、町医者の方が本業である叔父が、斗北藩の領地へと付き従って戻った姿を、実を言えば椋之助は目にしたことがなかった。


「藩医は他にもいるから、こちらの屋敷の心配はないが、暫く七星(ななほし)堂のほうを、椋之助に任せたいんだ」


 七星堂というのは、診療をする深川の町屋敷につけた名だ。本道(内科)が主軸だが、外科と児科も診る。


「わかりました。お任せ下さい。叔父上の留守中、しっかりと私が七星堂で江戸の皆を診ます」


 頼りにされているように感じ、椋之助は嬉しさを覚えた。

 両頬を持ち上げた椋之助を見ると、凌雲が優しい顔をする。それから続けた。


「それと実はな、お金は二人目の孫が生まれたら、一人目の孫を含めてそちらの子守りに専念すると話していてな。前々からもう一人、手伝いの者を入れる予定ではいたんだが、これを機に、小者(こもの)を七星堂に一人住まわせることとしようと思っている」


 椋之助は静かにそれを聞いてから頷いた。

 医学に関しては相応に自信がある椋之助だが、家事はからっきしである。


「小者の手配は(わし)がしておく。あとで迎えるようにな」


 最後に惣右衛門がそう締めくくり、この日はお開きとなった。




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