ラストダンスを
「ベアトリーチェ!」「ビアンカ!!」城で行われるパーティーでビアンカに会った。「ビアンカどこに行っていたの?」ベアトリーチェは久しぶりに姿を現した友人にハグをした。「この間誕生日で領地に帰ってからなかなか出てこれなくって!!」「そうだったんだ!!でも元気そうでよかった!」二人は手を握りあい再会を喜んだ。「ところで、ベアトリーチェこそどう?推し活?」「え?聞いちゃう?!」「聞くきく」二人は歩きながら話に花を咲かせている。「なんと!!陛下に頭をなでられました!!!」ベアトリーチェは肩をすくめニヤリと笑った。「すごいじゃない!!!」ビアンカは両手を胸の前で握りベアトリーチェの喜びを共に味わっている。「もうね、本当に頭洗えないんだ。わかる?」「わかるわかる」ビアンカは何度も頷いた。「でも女将から文句を言われてとうとう洗ってしまって今日はテンション低いです。」ベアトリーチェは力が抜けたように肩を落とした。「かわいそうに、、、て、そういえばもうすぐベアトリーチェも誕生日じゃない?」ビアンカが言った。
「あー、そうね、、、。」ベアトリーチェの顔から笑みが消えた。「帰るの?」ビアンカは不思議そうな表情でベアトリーチェを見た。「帰らないと、、帰るけど、、その前に推し活精一杯やらないと耐えられないわ!」ベアトリーチェはビアンカに見つめられ視線を逸らすように背を向けたがすぐに振り向き悪戯っ子のような笑顔を浮かべ言った。「だから今日も頑張る!」「ベアトリーチェ、今日も頑張りなさい!」ビアンカはベアトリーチェの様子が少しおかしいと思ったが元気に笑う姿をみて気のせいだと思った。「ありがとうビアンカ!!」ベアトリーチェはビアンカに手を振りその場をはなれた。
今日も推し活に邁進しようと決めていたが、隣国の姫が主賓のパーティーだった。今日は大人しくしメーベルトを見守ろうと決めた。もしかしてそのお姫様とメーベルト様が今日恋に落ちるかもしれない。邪魔するわけにはいかない。これが人生最後のパーティーだとしても推しの幸せは自分の幸せだ。
「今日はおとなしいな」テリウスは壁際に立っているベアトリーチェを見つけ話しかけた。「テリウス様、いつもありがとうございます。今日はお姫様がいらっしゃっていますから私は陰から応援しています。推しの幸せは自分の幸せですから!!」ベアトリーチェは笑ってテリウスに言った。
「お前本当に無欲だな、自分がとか思わないのか実際に。陛下だってお前を気に入っているぞ。好きかは知らんが」テリウスは手に持ったワインを傾けながらベアトリーチェに言った。「テリウス様、大変光栄なお言葉ありがとうございます。でも、私は自分の身の程をわかっておりますから、そんな大それたことは考えておりません。遠くから応援するだけで幸せです。」ベアトリーチェは壁に背中をつけ静かに深いため息をはいた。「そうなのか?俺にはわからんが」テリウスはワインを一気に飲み干し言った。「テリウスさま、人は誰でも一つ願いが叶うとその次その次へと欲が増えます。だけどその欲の前提には人生の時間があるからだと思うんです。明日死ぬ人間が生きる以外の欲を見出せると思いますか?時間のない人間はその時に感じた幸せを何より大事にするものです。」「お前死ぬのか?」テリウスは真剣な顔をしベアトリーチェを見た。「いえ、あ、人はいつか死にますから否定はしませんが、そう思って生きるほうが楽かなって」ベアトリーチェは苦笑いしながらテリウスに言った。「ふーんそんなものかな、俺には分からんが、お前もうすこし欲を出しても良さそうだぞ」テリウスはベアトリーチェにそう言い残し去って行った。
ベアトリーチェは隣国の姫をエスコートするメーベルトを見つめた。とても似合っている。メーベルト様はいつ見ても穏やかでスマートで見ている人間を安心させる力がある。そんな自分を保つためにどれ程の努力をなさったのかしら。心から尊敬しています。ベアトリーチェはそっと会場を出て城の庭園に出て来た。整備された美しい庭園。メーベルト様がいつも見ているこの景色を覚えておこう。ベアトリーチェは目の前に咲いている薄いピンクの薔薇を触った。月の光に照らされる優しいピンクの薔薇はベアトリーチェの淡い恋心を表しているように見えた。
「ベアトリーチェ!」不意に名前を呼ばれ振り返るとメーベルトが立っていた。「へ,陛下?!今日も麗しい」ベアトリーチェは慌ててドレスを持ち上げ挨拶をした。「ベアトリーチェ探したぞ!誕生日プレゼントだ!ラストダンスだ!」メーベルトは笑顔を浮かべベアトリーチェに言った。「え?陛下空耳?」ベアトリーチェは目を丸くし状況を理解できないで立っている。「ベアトリーチェ、さあ、」メーベルトはベアトリーチェに手を差し伸べた。「うそ?ど、どうしよう陛下どうしましょ?」ベアトリーチェは一気に顔が赤くなりあたふたし始めた。「いいから」メーベルトは挙動不審になっているベアトリーチェの手を握ってラストダンスを踊った。月の光に照らされた庭園で二人はラストダンスを踊った。
ベアトリーチェはこの夢のような状況に号泣し途中からダンスどころではなくなった。メーベルトはそんな様子を楽しそうに見つめ微笑みながらベアトリーチェに言った。「ベアトリーチェのお陰で国民から好かれ、皇帝って良いなと初めて思えたぞ。礼をいう。」ベアトリーチェはその言葉を聞き姿勢を正し深くお辞儀をした。そして顔を上げ涙を拭いながらメーベルトに言った。「陛下、もったいなきお言葉。このベアトリーチェは世界一幸せ者でございます。もう未練一つございません!」「ハハハ、相変わらず面白い。ラストダンス楽しかったぞ」メーベルトは涙を拭いながら微笑むベアトリーチェに自分がつけていたストールを渡した。「冷えるからもっていきなさい」メーベルトはベアトリーチェの頬にキスをし去って行った。ベアトリーチェは去ってゆくメーベルトの後ろ姿を見つめ号泣した。