永遠の10秒
それ以来メーベルトとテリウスは時間があるとお忍びで店に来るようになった。ベアトリーチェもそろそろメーベルトに慣れても良い頃だが相変わらずの調子だ。でも最近二人はそんなベアトリーチェが可愛いと思うようになって来た。それに他の令嬢達と違い純粋にメーベルトを応援している姿もメーベルトにとって好印象だった。
「ベアトリーチェ、君はいつも明るくて誰に対しても印象がいいけど苦手なことってある?」メーベルトは聞いた。「に,苦手ですか?!高いところが苦手です!!」ベアトリーチェは答えた「あはは、そうかそんな苦手があるのだな」メーベルトはベアトリーチェに微笑み言った。「でも下に陛下がいたら飛び降りれるんじゃないか?」テリウスはビールを一口飲み言った。
「陛下がいればどこでも行けます!!そこが地獄でも幸せです!!」ベアトリーチェは思わず立ち上がり力説した。「わかったわかった、お前は苦手さえ克服できるほど陛下が好きなんだな」テリウスが両手のひらを胸の前に広げ落ち着けというジェスチャーをしながら言った。「すすすす好き?違います!!大好きです!!」ベアトリーチェは両手を握りしめ恥ずかしげもなく言った。「わ、わかった、わかった。結婚したいほど好きなのか?」テリウスはその迫力に押されて後ろにのけぞりながら言った「め、めっそうもない、そんな恐ろしいことを考えるのは罪ですよ。陛下は私が汚していい存在じゃありません。陰から見守るのが精一杯です。」ベアトリーチェは真面目な顔をし少し俯いた。
「私は幸せものだな!」メーベルトはそう言ってベアトリーチェを見つめ「でも、そんな誉めてもらってばかりじゃあ申し訳ないから、何か望みを叶えてあげようか、誕生日はいつだ?なにかないか?ベアトリーチェ」メーベルトは俯くベアトリーチェを覗き込み聞いた。「ゆ,夢??推しが私ごときの誕生日を聞くなんて、、」ベアトリーチェは覗き込むメーベルトと目が合い顔を赤らめた。メーベルトはそんな様子を見つめ笑いながら「いつだ?」と聞いた。「た、誕生日は二週間後です、、。」ベアトリーチェは膝の上に置いた両手を握った。
「二週間後、そうかそれはちょうど良いプレゼントが出来そうだな。さあ望みを言ってくれ。」メーベルトは俯くベアトリーチェに言った。
「どうしよう、どうしよう」ベアトリーチェは考えていた。憧れて憧れてやっと顔を覚えてもらって、話しかけてもらえるようになった神様のような存在。その人から夢のような提案があったのだ。「ね,願い、、。お、思い出、思い出がほしいです!」「思い出?物とかじゃないのか?」メーベルトは意外な答えに首を傾げた。「はい、思い出だけは死ぬ瞬間まで持っていられるから」ベアトリーチェらしくない言葉だった。「どう言う意味?」メーベルトは表情を曇らせ聞いた。「あ、違うんです。うち貧乏貴族だから物があると売っちゃうんで思い出は売れないから、、それがいいです!!」ベアトリーチェは顔を上げ取り繕うようにいった。「ハハハ、どんな思い出がいいのだ?」メーベルトは聞いた。
「例えば、陛下とラストダンスを踊るとかか?」テリウスが言った。「ラ,ラストダンス?!意中の人と踊ると言われる伝説のラストダンス?!!めめめ、滅相もない、そんな事をしてしまったら陛下の将来に申し訳ありませんから絶対にダメです!!絶対反対!」「ベアトリーチェ、お前自分のことなのに自分に厳しいな」テリウスが言った。「俺は構わないぞ」メーベルトが微笑み言った。ベアトリーチェはその言葉を聞き喜びで体が熱くなった。嬉しい。でもラストダンスは本当に大切な方と踊って欲しい。「ダメです!!私ごときがそんな蛮行を行ったら万死に値します!!ばちが当たります!!」ベアトリーチェはラストダンスを頑なに拒み譲らなかった。「じゃあ何がいいんだ?」テリウスは必死になって辞退するベアトリーチェの姿に笑いながら聞いた。
「ぜ、贅沢を言うなら、、陛下の人生の五秒下さい、あ、贅沢すぎる、三秒、三秒を私に下さい。」ベアトリーチェは真っ赤になりながら頭を下げた。「意味が分からないが?」メーベルトはポカンとした顔をし言った。「三秒だけ私を見つめてもらっても良いですか?や、やっぱダメですよね。そんな贅沢許されないですね。」ベアトリーチェは俯いた。「ベアトリーチェ、ちょっと立て」メーベルトは立ち上がりベアトリーチェの腕を引っ張り目の前に立たせた。そして何も言わず優しい眼差しでベアトリーチェを見つめた。十秒ほど見つめ合いベアトリーチェが耐えられなくなった!「ああ、、陛下が麗しすぎて死にそうです。息ができません!今死んでも良いでしょうか?!幸せすぎる!」ベアトリーチェは顔を両手で覆い前屈みになった。幸せすぎてクラクラする。
「ハハハ、ベアトリーチェ、これは望みに入らないぞ、これくらいいつでもしてやる」メーベルトは歓喜のあまりうずくまるベアトリーチェを見て笑った。「うう、陛下、恐悦至極、麗しすぎて今晩寝れません。尊い。」ベアトリーチェは喜びと恥ずかしさのあまり顔を上げられない。「お前って本当に面白いなぁ」テリウスにとってベアトリーチェは感心するレベルに達した。「陛下、一生の思い出になりました。もう十分です。」ベアトリーチェは涙を浮かべメーベルトに頭を下げた。「まあ、そう言うな、また考えなさい」メーベルトは目の前で恥ずかしそうに俯くベアトリーチェの頭をポンポンと優しく撫でた。「ああ、。もう一生頭は洗えません。」ベアトリーチェは放心状態になりよろめきながらテーブルを離れた。