推し活
一
「絶対メーベルト様よ!!」ベアトリーチェは力説を始めた。
「あの美しいお顔立ちと王族の象徴である金色の髪に青い瞳。そしてあの存在感。もうひれ伏すしかないわ。私の推しはフローエン帝国の皇帝メーベルト陛下よ!!」ベアトリーチェは仁王立ちし友人達に話し始めた。「またはじまった!!もう恒例よね。ベアトリーチェの推し活」「でもまあ、ベアトリーチェに一票。私も推しは陛下よ」「え?アイーダ最近まで大魔法使いのロッシュ様じゃなかった?」ベアトリーチェは驚いた。いつの間にか親友と推しが被っている。
「だって、世紀の恋?あの美しいアストリット様には敵わないわ」アイーダはため息をついた。「確かに、敵同士の大恋愛には敵わないわね。まあウエルカムよ!!」ベアトリーチェは満遍の笑みを浮かべ親友のアイーダにハグをした。
「それで、わたくしベアトリーチェは今日そこ私という存在をメーベルト様に知ってもらう為、一歩踏み込んだ推し活をしちゃいます!」ベアトリーチェは両腕を組み二人に宣言した。「何をするつもり??」呆れ顔のビアンカが聞いた。「今日は大胆に推しの行動を推測して先回りするの。あれ?この子また会ったな!という作戦よ。三ヶ月もただ見ているだけだったからだそろそろ行動しないと!」ベアトリーチェは今日こそメーベルト一世に自分という存在を認識してもらう事に全力をかけていた。しかし絶大な人気があるメーベルトは独身ということもありなかなか近づくことが出来ない。しかも、底辺の貴族であるベアトリーチェにとって雲の上の上の存在だ。だけどそんな事を言っていられない。ベアトリーチェは人生をかけて推し活をしているのだ。
「ロッシュが結婚してからさらに人気があがったな」帝国最強騎士のテリウスがメーベルトに言った。「ハハハ、俺はみんなのものだからな」さすが皇帝は言うことが違う。けれどパーティーを開催するたび女性が殺到してしまう現状が続けば皇帝と言えども疲れてしまう。しかしメーベルトはそんな素振りも見せず皇帝を徹底していた。沢山の姫や令嬢に囲まれにこやかな微笑みを浮かべるメーベルトの周りに人が途絶えることがなかった。
結局ベアトリーチェは先回りをしてもしても全く、一センチすらメーベルトに近づくことが出来なかった。今日も惨敗だ。
ベアトリーチェは宿に帰った。ベアトリーチェの家は貧乏貴族で帝都に家がない。だから安宿に泊まりメーベルトが参加するパーティーに参加していた。しかし資金の問題もあり宿にある酒場で手伝いをし日銭を稼いでいた。宿の女将はこのベアトリーチェを気に入っている。
貧乏貴族でもプライドだけが高い人間が多い中でベアトリーチェはそんなプライドは持っていなかった。あっけらかんとし平民と同じ仕事をして一緒に食事も取りメーベルトを追っかけている。そんなベアトリーチェは皆に好かれていた。
「お、ベアトリーチェ!陛下に声かけてもらえたか?」酒場にきた常連が声をかける。「ぜーんぜん。存在すら知ってもらえていないわ!!最悪!!」ベアトリーチェの陛下ラブはこの界隈では有名で皆ベアトリーチェを応援していた。
ベアトリーチェは一向に存在に気づいてもらえない自分を嘆き、一皮剥けなければならないと覚悟を決めた。残された禁じ手。そう奥の手だ。もう恥だのなんだの言っていられない。幸いプライドなど持ち合わせていないから出来る。この作戦に必要なのは突っ切った自分だけ。覚悟を決めたベアトリーチェは夜なべをし横断幕と扇子に陛下ラブと書いた推し活アイテムを作った。その出来栄えは非常に良くそれを女将さんと宿に泊まっている客に見せたら大ウケした。その反応を見てベアトリーチェは自信を得た。「あんたそれすごいわ。尊敬する」女将は腹を抱えて笑っている。まあ、まず気位の高い姫や令嬢はやらない。そもそも平民ですらここまでやらないだろう。「よし!今晩はこれで行く!!」ベアトリーチェは両手に推し活アイテムを持ちお城に向かった。
「ベアトリーチェ!」城に入るとアイーダとビアンカが驚いた顔をしベアトリーチェに近づいて来た。「何その大荷物?!」「二人とも聞いて、今日こそベアトリーチェはやります!!」ベアトリーチェは両手の袋を掲ニヤリと笑った。「え?何を?!」二人は首を傾けベアトリーチェを見た。「じゃーんどう??」ベアトリーチェは袋から取り出した横断幕と扇子を見せた!
二人はそれを見つめドン引きした。「あんた完全に捨てたのね。」ビアンカが首を左右に振りながら言った。「捨てた?」ベアトリーチェは首を傾け聞いた。「そう、プライドよ」アイーダがため息をつきながら言った。ベアトリーチェはその言葉を聞きまじめに答えた。「いやだわ、ビアンカ、プライドでご飯食べれるのは上位の貴族と姫だけよ!私のような貧乏貴族の底辺はそんな物どこかに売ったわ!!それよりも今日こそ私の存在感を出して見せるわ!」ベアトリーチェは自信満々に二人に微笑み手際よく準備を始めた。ビアンカとアイーダはベアトリーチェから少し離れたところで(恥ずかしいので)見守ることにした。
程なくしメーベルトが会場に入ってきた。メーベルトは上段から集まった貴族達を眺めワインを手に持ち乾杯の合図をした。皆も同じようにワインを持った。
「フローエン帝国とその国民に乾杯」メーベルトはそう言ってワイングラスに口をつけた瞬間、隣にいたテリウスがワインを吹き出した。メーベルトは驚きテリウスを見た。テリウスは震えている。「毒か?!」一瞬そう思ったが様子が違う。「お、おい陛下、、あれ見ろよ」テリウスが笑いを堪えながら下段にいる貴族達指差した。メーベルトはテリウスの指差す方を見た。「な、なんだあれは?!」メーベルトは思わず声を上げた。どこぞの令嬢が横断幕を掲げて手には扇子を持ちこちらを見て手を振っている。横断幕には「麗しの陛下!ラブ!ベアトリーチェ」と書いてある。扇子には「陛下ラブ」と書いてあった。メーベルトははじけるような笑顔で手を振る令嬢につられついつい手を振ってしまった。その女はさらに喜び大きく手を振った。その女の手が隣にいた紳士の頭にあたりカツラが飛んでいった。紳士は慌てて「麗しの陛下!ラブ!ベアトリーチェ」と書いてある横断幕をその女から奪い頭に巻きつけ女はその男に頭を下げながら飛んでいったカツラを追いかけている。それをみたテリウスは「も,俺無理」と震えながら奥に引っ込んでしまった。メーベルトは笑いたいのを我慢し何事もなかったような穏やかな笑顔を浮かべ貴族達をみた。
続きます。よかったら続きもご覧ください。