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第7話  再会

 ティルさんの前では「そうです」と頷くわけにもいかず迷っていると、仕事は良いから話をしておいでと状況を察してくれたセイラさんが言ってくれた為、ティルさんにはまた連絡するという旨を伝えて帰ってもらい、店の外に出ると、特に行くあてもなく歩きながら、突然、現れた美少女に問いかける。


「あの、失礼ですが、どちら様でしょうか」

「失礼いたしました。わたくし、皇太子殿下の命により、マリアベル様をお迎えに上がりました。皇太子殿下の側近の一人のソニアと申します」

「皇太子殿下が私に何の御用でしょうか…? 失礼な事を申し上げますが、皇太子妃の件でしたら、私の妹とお間違えでは?」

「いいえ。マリアベル様で間違いありません。その事をご説明したいので、少しお時間よろしいでしょうか?」

「かまいませんが…」


 私が頷くと、ソニア様は魔道具を上着のポケットから取り出すと、私に尋ねる。


「転移したいのですが、お体に触れてもよろしいですか?」

「かまいません」


 ソニア様が私の腕に触れた瞬間、今まで見えていた景色が一変して、さっきまでの喧騒は一切なくなり、目の前に現れたのは大きな鉄の門だった。


 ソニア様が転移した場所は皇居の門の前ですぐ近くにいた兵士に声を掛けて中に入れてもらうと、門から皇居までがかなり離れているからか馬車を用意してくれて、馬車で移動する事になった。


 皇居の敷地内では王族やその血が流れている人以外は魔法も魔道具も使えないんだそう。 

 というか、どうして私がこんな所まで連れてこられているのかしら?


 きっと、皇太子殿下は私の顔を見て、思っていた人間じゃないとがっかりされるはずだわ。

 だって、そうでしょう?

 何を間違えたら私を選ぶ事になるの?


 間違えたのは皇太子殿下なのだから、私が罰されるという事はないわよね?


 私の考えている事を読み取ったかの様に、向かいに座っているソニア様が微笑む。


「ご心配なく。殿下が探しているのはマリアベル様で間違いありません」


 馬車が皇居前で停まり、ソニア様に付いて皇居内に入ると、すれ違う人全ての人がソニア様と私にお辞儀をしてくれた。


「殿下、マリアベル様をお連れしました」


 ソニア様は迷う事なく、ある部屋の前で立ち止まり、茶色の大きな扉を叩いた。

 すると、声が返ってきたと同時に中から扉が開けられた。

 …のだけれど、開けてくれた方が皇太子殿下だったので驚いてカーテシーをする。


「皇太子殿下にお目にかかる事ができ、誠に光栄に存じます」

「あ、僕じゃないです」


 僕じゃない?


 皇太子殿下は慌てた顔をして扉を大きく開けると、私に中に入る様に促してくる。


「中にお入りください。殿下はあちらです」


 意味がわからないまま、中に足を踏み入れると、通された部屋はどうやら執務室のようで、たくさんの本棚に応接セット、そして入って右奥に執務机があり、そこに皇太子殿下によく似た男性が座っていた。


 すると、今まで皇太子殿下だと思っていた人が私に声を掛けてくる。


「本物の殿下です」

「ほ、本物の…殿下?」


 困惑して聞き返すと、執務机の椅子から立ち上がった男性は、私に笑顔を向けてくる。


「良かった。無事だったんだな。手紙を送ってくれてありがとう」

「……て、手紙、ですか?」

「殿下、その姿ではわかりにくいのでは?」

「あ、ああ。そういう事か」


 皇太子殿下らしき人はソニア様に注意されて頷いたかと思うと、一瞬にして子供の姿に変わった。


 その姿は、先日、お話をしたライリー様とそっくりだった。


「ラ、ライリー様は…、皇太子殿下だったんですか!?」

「そういう事だ。諸事情で子供の姿になっていた。俺は姿を変える魔法が得意なんだ」


 皇太子殿下は笑顔で頷くと、また大人の姿に戻り、私に近寄ってくる。


「家から追い出された上に婚約破棄までされたんだろ? 大変だったな…」

「そ、それよりも、私は皇太子殿下に対して、なんて失礼な事を…!」

「気にしなくていい。それよりもどうしたんだ、その格好」


 今の私はドレス姿ではなく、平民がよく着ている膝下丈のワンピースを着ているからか気になられたみたいだった。

 

「あの、実は私は今、平民として生きていこうとしてまして…」

「……悪いが諦めてくれ」

「そ…、そんな!」

「どういう事だ? そんなに平民の生活がいいのか?」


 驚く皇太子殿下に事情を説明すると、こめかみをおさえながら聞いてこられる。


「一度、引き受けた以上、中途半端な状態で辞めたくないという事だな?」

「……そうです。もちろん、私の自分勝手な意見だとは承知しております」

「確認しておくが、俺の妻になるのが嫌だというわけではないんだな?」

「それは、もちろんです」


 皇太子殿下に対して、あなたの妻になりたくありません、なんて言える人っているのかしら…。


「うーん、どうするか、だな。危険だが、マリアベルには一人二役してもらうか…」

「……どういう事でしょう?」


 意味がわからなくて聞いてみると、皇太子殿下はけろりとした表情で答えてくださる。


「そのままだ。お前が伯爵令嬢だと知っている宿屋の人間には伝えてもいいが、それ以外の人間には宿屋で働いている間はただのマリアベルで通せ」

「マリアベル・シュミルと、平民のマリアベルの二役をしろという事ですか?」

「そうだ。マリアベル・シュミルの事を知っている様な人間は宿屋には近付かないんだろう?」

「平民しか来ないと聞いてます」

「なら大丈夫だろう。護衛はつけさせるし、父上達にも話をしておく。ただ、期間は決めさせてもらうがな」

「殿下、いけません!」


 私の後ろに立っていたソニア様達が殿下に叫んだけれど、殿下は手で2人を制して言う。


「危険だという事はわかっているから、手は打つつもりだ。ただ、妻になる人間のワガママを少しくらいはきいてやりたい。妻にしようとしているのは俺のワガママだからな」


 本当に期間限定で平民暮らしをさせてくれるおつもりなのかしら?

 正しくは二重生活の様な形になるのだろうけれど…。


「詳しい話は改めてするか。あまり長くここにいると、宿屋の人間も心配するだろう。だが、帰る前にいくつか話しておきたい事があるので、もう少しだけ時間をくれ」


 そう言ってから殿下は、明日、私の実家に乗り込むつもりだという事を教えてくれた。



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