第70話 ソニアの見合い相手と好きな人
ズード様に迷惑だと言われることは予想はしていた。
普通はお見合いに猫なんて連れてこないものね。
動物が好きな人なら触らせてほしいと言ってきそうなものだけれど、動物好きかどうかは一目見た時の表情を見れば大体わかる。
今のところ、私に触れたいというよりも近寄りたくないという印象のほうが強かったから、ソニア様のいない時は余計にどういう反応をするのか見たかったから、わざと1人になってみたけれど嫌な予感が当たってしまった。
「にゃー」
近づかないでと言わんばかりに鳴くと、ズード様は眉根を寄せる。
「生意気な猫ですね。何か文句でもあるんですか」
ズード様がそう言って、警戒態勢を取った私の尻尾の付け根を掴んだ時だった。
「「おやめください!」」
今、戻ってきたようなふりをしたソニア様と、彼女と一緒に私を見守ってくれていたフィーゴ様の声が重なった。
二人に見られていることに気がついていなかったズード様は焦った顔になって、私の尻尾を放した。
そして、自然な笑顔を作ってソニア様に話しかける。
「驚かせてしまってすみません。猫が可愛いなと思い、触ってしまいました」
「可愛いといって、まず尻尾を掴む人なんているんでしょうか。頭を撫でるのが普通でしょう。それから、その猫はライリー様が可愛がっている猫です。気軽に触れないでください」
ソニア様が厳しい口調で言うと、ズード様は眉根を寄せる。
「それならそうと言ってくださいよ。それに触ってはいけないような大事な猫、いや、ライリー皇太子殿下の猫というのなら、ここに連れて来る必要はないでしょう!」
ご尤もな意見に、ソニア様は険しい表情で頷く。
「そのことについてはおっしゃる通りだと思います。ですが、今回は私にとって初めてのお見合いです。不安になって誰かに付いてきてもらっても良いでしょう。それに優しく頭を撫でたりするくらいなら何も言いません」
「猫の尻尾に触れたことはお詫びしますが、1人では心細いと言うなら、ご家族に来てもらえば良かったでしょう」
そこまで言って、わざとらしくズード様は言葉を止めて嫌な笑みを浮かべた。
「ああ、そうでした。あなたのお家は離婚されているのでしたね。お母様はあなたを捨てて実家に戻られているから来てもくれない」
「ソニア」
ズード様が話をしている途中でフィーゴ様がソニア様の名前を呼んだ。
「……どうかしたの?」
「君、この人と結婚したいと思っていたりするかな」
「今のところはないわ」
ソニア様が遠慮なく答えると、それを聞いたズード様は顔を赤くして叫ぶ。
「行き遅れの令嬢をもらってやると言っているのに偉そうにしないでくれ!」
「もらってやると言われるくらいでしたら、あなたにもらっていただかなくても結構です!」
「そんな調子だから、その年になっても婚約者がいないんですよ! 僕以外にあなたをもらってくれる人なんているわけがないのに、そんな口をきいて良いと思っているんですか!」
それを言ったら、酷いことを言うあなたみたいな人のところに嫁に来てくれる人なんていないわよ!
文句を言いたいけれど、猫の姿だから言えなかった。
すると、フィーゴ様が微笑んでズード様に話しかけた。
「ソニアがあなた以外なら誰でも良いと言うようになって、婚約者が必要だと言うのであれば、僕がいますので大丈夫ですよ。ですから、ソニアの婚約者のことは心配していただかなくても結構です」
フィーゴ様の言葉を聞いた私は「にゃうぅ!」と鳴き声を上げ、ソニア様は「ええっ!?」と頬を赤く染めて聞き返した。




