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第6話  見つけた人と見つけられない人

 働き始めて数日後、接客に慣れてきた私のところへ訪ねてきた人がいた。


「はじめまして! 役場に勤めているティルと申します。 本日はマリアベル様に聞きたいことがあって参りました」

「はじめまして、マリアベルです。この宿屋でお世話になっています。よろしくお願い致します」

「こちらこそ、よろしくお願い致します!」


 頭を下げると、セイラさんか私の耳元で言う。


「彼女がロバートの好きな子よ」


 ロバートさんが思いを寄せている相手、ティルさんは小顔で目がパッチリしていて、とても可愛らしい見た目をしていた。

 彼女には女性の私から見ても、とても人気のある方なのだろうと納得できるくらいに人を惹き付けるオーラがあった。

 ティルさんの場合は、彼女なりの魅力であって、エルベルの様な魅了とは違う感じがする。

 それがなぜかというと、エルベルに関しては私には普通の可愛らしい令嬢にしか見えないのに、魅了にかかってしまった人に聞いてみると、エルベルは天使の様に美しくて神々しく見えているというのだから、現実との差がありすぎている。


 もちろん、本当の姿を見ようとしても見れないのが魅了魔法だから、その人を責める気はない。


 ただ、ティルさんの可愛さは私が受けた印象と他の人から見た印象は似たようなもので、そう大した差はないから、魅了魔法ではない事がわかる。


 せっかくティルさんが来てくれたのに、肝心のロバートさんがいない。

 なぜかというと、今日はロバートさんの出勤日だから。

 今の時刻はティータイムを過ぎた時間なので、ロバートさんが帰ってくる時間まで、彼女を引き止める事は出来ないから、とりあえず気になる事を聞いてみる。

 

「ティルさんにお会いできて本当に嬉しいです。ところで、私に聞きたいこととは何でしょうか?」

「お仕事中に申し訳ございません。実は人を探していまして、その方のお名前がマリアベルさんという名前だったので確認したくて…」

「人を探している…?」


 嫌な予感というか、なんだか不安な気持ちになって聞いてみると、私よりも背の低いティルさんは上目遣いで申し訳無さそうな顔をして尋ねてくる。


「マリアベル・シュミル様という方を探しているのですが、マリアベル様の事じゃないですよね?」

「……」


 たぶん、いや、絶対、私の事なんだと思う。

 だけど、そうだと答えたら私はどうなるの?

 皇太子殿下が探しているというのなら、下手に嘘を吐くわけにはいかないけれど、先日の新聞で皇太子殿下は載せようと思えば載せられたのに、名前を公表しなかった。


 それなのに、今回は役所を使って探している。

 ということは、私を探している相手は公にするのを控えてくれた皇太子殿下ではない可能性か高い。

 もし、私を探している相手がお父様達だったら?

 また、あの家に戻るのは絶対に嫌よ。


 まずは聞いてみないと…。


「あの、お聞きしたいんですけれど、マリアベル・シュミルという人物を探しているのは誰なんですか?」

「マリアベル様の婚約者であるホールズ伯爵令息です」

「婚約者ですって?」


 知らないふりをしないといけなかったのに、ビークスの事を思い出して、不快な声を出してしまった。


 その時だった。


「失礼ですが、マリアベル様でしょうか?」


 黒の軍服を着たポニーテールの美少女が宿の入り口から入ってきて、カウンターにいる私を見て尋ねてきたのだった。

 






***




 マリアベルの元にティルがやって来た時間、シュミル邸にはビークスが訪れていた。


「マリアベルはまだ見つからないのか!?」

「申し訳ございません!」


 ゴウクに叱責され、ビークスは大きな声を出して謝罪の言葉を述べてから頭を下げ、ゴウクからの話を聞くと、早々にシュミル邸から去った。


 あの日、マリアベルとの婚約を破棄したビークスは、すぐにエルベルとの婚約を結ぼうとしたのだが、上手くいかず保留にされていた。

 ゴウクがビークスを呼び出した内容は、マリアベルを連れ戻す事が出来たらエルベルとの婚約を認めても良いと言うことだったため、慌ててマリアベルを探す事にした。

 といっても、どう探せば良いのかわからなかった彼は、まずは屋敷に戻り、近くの宿屋の息子が騎士の中にいたので、伯爵令嬢が泊まらなかったかと尋ねてみたが、伯爵令嬢が泊まった記憶はないと答えた。


 マリアベルはドレスを着ていた為、目立つ格好をしていたから、すぐに見つかると思っていたが、彼女を隣町まで乗せたという辻馬車の情報もないので、まだ彼女はこの街にいると思われた。

 

 その為に人が多く集まる役場に行き、マリアベルの情報を得ようとしたのだった。


 役場の人間達はビークスが「婚約者が失踪してしまい、夜も眠れない。何か情報をいただけませんか」と涙ながらに語ると、皆、親身になってビークスにマリアベルを探すと約束してくれた。

 

「早く…早く見つけないと…」

「どうかされたのですか?」


 焦った顔で部屋の中をウロウロ歩き回るゴウクにビークスが尋ねると、ゴウクは足を止めて答える。


「来るんだよ!」

「はい?」

「明日、皇太子殿下がマリアベルに会いにこちらへ来られるんだ!」

「マ、マリアベルに会いにですか!?」

「そうだ! エルベルにした方が良いと助言してやったにも関わらず、皇太子殿下の答えはこれだ!」


 そう言って、ゴウクはぐしゃぐしゃにして丸めた紙をビークスに投げつけた。

 ビークスが紙を拾い上げて内容を確認すると、こう書かれていた。




『マリアベルが良いと言っているだろう。家出したというなら連れ戻して来い。俺との結婚がどうしても嫌だというのなら彼女の口から聞きたい』




「皇太子殿下は皇太子妃にマリアベルを選ばれたのですか…?」

「そうだ! お前が婚約破棄などするから!」

「僕は最初からエルベルを愛していたんです!」

「マリアベルを好いている素振りを見せていたじゃないか!」

「あれはエルベルに頼まれていただけです!」


 しばらく、くだらない喧嘩を続けた2人だったが、ゴウクが頭を抱えた事によって喧嘩は終わる。


「どうしたらいいんだ…! 明日には皇太子殿下がやって来るというのに…!」

「…シュミル伯爵」

「何だ?」

「エルベルに謝ってもらいましょう。彼女の美しさがあれば、皇太子殿下もお許しくださるはずです」

「…そうか! そうだな。皇太子殿下もエルベルを目の前にしていないから、こんな事を仰るんだ」


 ゴウクを落ち着かせ、話を終えたビークスは帰る前にエルベルの顔を見ようと思い、彼女の部屋に向かった。

 彼女は笑顔で出迎えてくれたけれど、なぜか、その時のビークスはエルベルに対して、いつも覚えていた様なときめきを感じなかった。


 疲れているのかもしれないと考えたビークスは、二言三言言葉をかわし、すぐにエルベルの部屋を後にしたのだった。


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