第49話 鈍感な皇太子妃候補と企む公爵令嬢
話が長くなりそうなので、身を離してソファーに座り直してから聞いてみる。
「あの、フェールがどうかしましたか? もしかして、ライリー様に学生時代の私の悪口を言ったりしました!? どんなことを言ってました!?」
「悪口なんかは言ってない。さすがに皇太子の前で皇太子妃候補を馬鹿にしたりしないだろ」
「……そう言われればそうですね」
頷いてから、フェールは陰口を叩くタイプでもなかったことを思い出して言葉を続ける。
「彼が誰かの悪口を言っているという姿を見たことはないかもしれません。もちろん、本当に何か悪いことをしていた相手に対しては本人に面と向かって言っていましたし、それだと悪口ではなくて注意になりますよね」
「そうだな。彼は基本は良い奴ではありそうだが」
ライリー様の言葉の歯切れが悪いので聞いてみる。
「あの、どんなことを言われたのか教えていただくことはできますか?」
「ああ」
ライリー様は首を縦に振ってから続ける。
「……マリアベルと会う時間をくれと言われたんだ」
「私と会う時間を?」
聞き返してから、フェールがそんなことを言う理由を考えてみる。
学生時代の友人と久しぶりに会って懐かしくなったとかそんなところかしら?
フェールの立場上、学生時代の友人とは中々会う機会はなさそうだもの。
「学生時代が懐かしくなったとかでしょうか? 別にそれは普通なのではないですか? もちろん、二人きりで会ったりするのは問題があるかもしれませんが……。それの何が気になるんです?」
首を傾げると、ライリー様は眉間に皺を寄せてから大きなため息を吐いた。
気分を害してしまったのかと思い、焦って尋ねる。
「ど、どうされましたか? 私、おかしなことを言いましたか?」
「いや、おかしいことは言ってない。良い意味で受け取れば、それだけ彼のことを意識していないんだろうなと思えるから良いんだけど」
「フェールのことを意識? どういうことです? 彼が何か気になることを言ってたんですか?」
「まあな。仕事の話が終わった後に雑談として、マリアベルとの話を聞いてみたんだが」
ライリー様はそこで言葉を止めた。
何が言いづらいのかしら?
とにかく急かさずに言葉の続きを待っていると、少ししてから口を開いてくれた。
「俺の思い違いかもしれないが、マリアベルとの仲を自慢されたというか」
「私との仲を自慢!?」
思わず大きな声で聞き返してしまった。
すると、ライリー様は頷く。
「本当は婚約者になっていたかもしれないって……」
「はい!? そんなの初耳なんですけど!?」
ライリー様は平静を装っているけれど、いつもよりも不安げに見えるから、はっきりと否定しておく。
「嘘ではなく、本当に婚約者の話は知りません! 考えられるとしたら、昔の父が私には連絡せずにお断りの連絡をいれていたという可能性はありますけど……」
「そういうことなのかもしれないな。その時は王子だなんて名乗ってないだろうし」
ライリー様は頬を緩めてから立ち上がる。
「長居して悪かったな。今日はもう帰る」
「色々とありがとうございました」
「こちらこそありがとう」
ライリー様はそう言って、彼を見送るために立ち上がった私の右頬に口づけた。
「ひあっ!?」
変な声と同時に後ろに飛び退く。
右頬を押さえ、何か言おうとしたけれど動揺で頭が回らなくて口をパクパクしていると、ライリー様が笑う。
「そこまで驚かなくてもいいだろ」
「不意打ちだからですよ!」
「それでもそこまで驚かないだろ」
笑い続けるライリー様を見て、ムッとしてしまった私は彼に近寄った。
そして、ライリー様が何か言う前に背伸びをして彼の耳に口づけた。
「マ、マリアベル!?」
耳を押さえて慌てるライリー様を見て、にこりと微笑む。
「お返しです」
「……嬉しいお返しだな」
ライリー様は耳はまだ少し赤いままではあるけれど、すぐにいつもの冷静さを取り戻してしまった。
私ばかりがドキドキしているから、なんだか悔しくなって抱きついてみると、少ししてから抱きしめ返してくれた。
「どうしたんだ?」
「気持ちを確かめてるんです」
「気持ちを?」
「そうです」
「……マリアベル」
「何でしょう?」
抱きついたまま顔を上げると、ライリー様が見つめてきた。
何を言おうとされてるの?
あ、もう帰ると言われていたから離れろってことね!
「申し訳ございませんライリー様。すぐに離れますね!」
「い、いや、そういう問題じゃなくてだな」
「お引き止めしてしまい申し訳ございません」
「だから違うって!」
そう言って、中々ライリー様は離れてくれなかった。
困ったわね。
ライリー様は何が言いたいのかしら?
一生懸命考えていると、部屋の扉が叩かれた。
相手はフィーゴ様で、帰ってこないライリー様を迎えに来たのだった。
*****
王宮からの帰りの馬車の中でピテン公爵令嬢は今日のことを思い出して腹を立てていた。
なぜなら、マリアベルに良くない噂があると伝えても、ライリーは気にする様子もなかったからだ。
子供の頃からライリーに想いを寄せているピテン公爵令嬢は、彼がマリアベルと結婚することを認められるはずがなかった。
(あんな女よりも私のほうが良いじゃないの!)
そう考えた彼女は自分が疑われることなく、マリアベルとライリーの結婚を破談にさせる何かはないかと調べることにしたのだった。




