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第4話  前を向く娘と焦る父

 その日の夜、セイラさんがご主人にも話をつけてくれて、私は正式に宿屋の受付嬢として働ける事になった。

 お世話になるお礼に、明日にでも今、着ているドレスを売ってお金にして、ちゃんと働ける様になるまでの宿代をお支払いしようと思ったのだけれど、それなら動きやすい服を買ったり、自分の生活用品を買うようにと言われてしまった。


 ビークスからもらった慰謝料は平民がよく行く服屋さんでなら、何着も服が買える金額だった事もあり、ドレスは売らずに保管しておいて、いざとなった時に売る事に決めた。

 

 もしかしたら、お父様が追い出すまでしなくても良かったかもなんて思い直してくれて、私の事を探してくれているかもなんて甘い事を思ったけれど、そんな感じは全くなさそうだった。

 宿の仕事が一段落ついたセイラさん達と遅い夕食をとっていると、ここを紹介してくれた騎士の人がやって来て、私の顔を見るとホッとした顔になって言った。


「良かった。貴族のお嬢様って地図が苦手な人が多いから、ふらふら歩いて悪い奴に襲われてたらどうしようって思ってたんだ」


 セイラさんとご主人のワングさんの一人息子であるロバートさんは、普段はビークスの家の日勤の騎士をしていて、仕事が終わると宿屋の裏にある家に帰ってくるらしい。

 元々、騎士になるきっかけは宿屋の用心棒になるためだったのだそう。

 昼間は人が多いから安全だけれど、夜になると酔っ払いなどが増えて、家族やお客さんに絡む人が出てくるから、そうなった時にすぐ対処できる様にと思って強くなった結果、騎士になる程にまで腕を上げたというのだからすごいと思う。


 セイラさん曰く、性格も良く騎士になるほどの実力者という事で女性に人気の高いロバートさんだそうなんだけれど、実は片思い中らしい。

 今度、ロバートさんが休みの日にその彼女を紹介してくれるそうなので、私としては恩返しとして、その女性と仲良くなって、彼女の迷惑にならない程度にロバートさんとの仲を取り持てたら良いななんて事をベッドで横になりながら考えていると、気が付いた時には眠りについてしまっていた。


 そして次の日の昼からは生活に必要なものをセイラさんと一緒に買いに出かけた。

 なぜなら、トランクケースを渡されたのは良いものの、中に入っていたのは亡くなったお母様の写真と私愛用の枕とエルベルが読まない財務に関する本だけだったから。


 エルベルに読まれる可能性があるため、日記などは書いていなかったし、私が気に入ったドレスはエルベルも気に入るものだから、全て彼女のものになっていたし、特に持ってきたかった服はなかった。

 使っていた枕とお母様の写真が入っていたのは執事達の優しさなのかもしれない。

 もちろん、私を追い出した事は許せないけれど。


 化粧品や下着、動きやすい服、履きやすい靴など買い揃えていったら、ビークスからもらったお金はほとんどなくなってしまった。


 そうそう。

 トランクケースの中にお父様からの手紙とお金も少しだけ入っていた。

 手紙の内容は「この金で遠くへ行け。二度と顔を見せるな」と書かれていて、他国に渡れるくらいのお金が入ってはいたけれど、他国に渡ってからの生活の事は考えてくれていない様だった。

 このお金にもっと早くに気付いていれば、私は今頃は修道院に行っていたのかもしれないと思うと、勝手にこの宿の人達との縁を感じてしまった。


 そういえば、お父様の様子が最近、特におかしくなってしまったのは、エルベルの魅了が強くなっているという事かしら?

 ……そういえば、ライリー様はエルベルが近寄ってきても反応していなかった。

 ライリー様も魅了魔法に耐性があるのかしら?

 それとも子供だからきかなかったのかしら。


 ライリー様、手紙を読んでびっくりしたでしょうね。

 手紙の返事がほしい気もするけれど、ライリー様が返事を送ってくれるとすれば、私の実家になるはずだから、私の手元には一生届かないわね…。



 買い物を終えた頃には夕方になっていて、セイラさんから働くのは明日からで良いと言われたので、お言葉に甘えて夕食をセイラさん達と一緒にとった後は、部屋に戻って体を洗ってから眠りについた。



 

***




 その頃、シュミル家ではマリアベルの父ゴウクと、執事、ゴウクの側近2人が執務室に集まって頭を抱えていた。


「もしかして、エルベル様と間違えておられるのではないでしょうか…?」

「名前を間違えたという事か…?」


 側近の言葉にゴウクが聞き返す。

 ゴウクの手には皇帝からの書簡が握られており、その書簡には「我が息子ライリーがそなたの娘のマリアベルを妻にしたいと申している」と書かれていたのだ。


 皇帝からの書簡が来た時はエルベルが皇太子妃に選ばれたと喜んだゴウクだったが、中身を確認して焦った。

 なぜなら、マリアベルは自分が追い出してしまい、今、どこにいるのかわからないのだから。


「そうに決まっています! エルベル様に聞いたところ、マリアベル様は皇太子殿下とお話をされていないのです。それなのに、皇太子妃に選ばれるなんて事はありえません!」

「そうだな…。そうだよな…。では、どうすれば良い? 皇太子殿下が気に入られた相手はマリアベルではなくエルベルですと返事を返せば良いのか?」

「そ、それは…、また違うような気がします」


 エルベルの魅了魔法に抵抗できなくなっている彼らには、マリアベルが選ばれるという選択肢は全く思い浮かばなかった。


 4人で考えた結果、とりあえず皇帝に返事を返す事にした。

 そして、その返事を見た皇帝があまりの内容に怒りを通り越して呆れ返ってしまい、ライリーに丸投げする事になるのだが、その事をこの頃の4人は知る由もなかった。


 

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