第43話 皇太子妃候補と第二王子
「あなたは困った子ね。どうして、ノンナ達に抱かれるのは嫌なの?」
私の部屋に入る前に、タヌキをメイド達に預けようとしたのだけど、それも嫌がり、私にしがみついた上にノンナ達に威嚇した。
だから、しょうがなく私が抱っこしたまま部屋に入り、汚れた体を洗面ボウルで洗ってあげたあとに、足を拭いてから私のベッドの上にのせた。
タヌキは落ち着かない様子でウロウロしたあと、ベッドから飛び降り、ウォークインクローゼットのほうに移動した。
自室にいるので、用がない場合は、メイドや侍女は部屋の外にいる。
わざわざ、ウォークインクローゼットを開けても良いか聞くのもどうかと思ったので、タヌキを抱き上げてから、望み通りに中に入れてあげる。
「ドレスに触っちゃ駄目よ?」
話しかけても無駄だろうけど、そう言ってみると、必死にタヌキはドレスに手を伸ばそうとする。
「駄目よ。傷をつけたりしたら大変だから」
タヌキは諦めたのか、今度はウォークインクローゼットを出たいみたいで、出口の方に手を伸ばす。
「あなた、言葉がわかっているみたいね」
まさか、ライリー様がタヌキに変身しているとか?
そんなことはないわよね?
お客様が来ていたし、このタヌキがライリー様ならフィーゴ様が絶対に気付いていたはずだわ。
そう納得はしていると、タヌキが必死に顔を縦に振っていることに気が付いた。
「本当に言葉が通じるの?」
タヌキは何度も首を縦に振る。
「えーっと、右手をあげてくれる?」
すると、タヌキは素直に右手をあげた。
嘘でしょ。
本当に言葉が通じてるの?
「どういうこと? 魔法か何かで姿を変えてるとか?」
質問してみると、タヌキはこくこくと顔を縦に振った。
ライリー様以外に変化の魔法を使える人がいるだなんて思ってもいなかったわ。
抱きかかえているから、人の姿に戻れないのかしら?
「どこへ連れていけばいいの? 元の姿に戻れる?」
タヌキはベッドのほうを手で指す。
相手が人かもしれないから、そんなところに置きたくはないんだけど、さっきと置いたし、しょうがないわよね。
覚悟を決めて、ベッドの上にタヌキを置いてやると、もそもそとシーツの中に潜っていく。
その間に、私はいつでも逃げられるように扉に張り付くようにして立った。
上に掛けられている白いシーツの膨らみが、いきなり大きくなった。
怖くなって慌てて、人を呼ぼうと扉の取っ手に手を掛けた。
「待ってくれ!」
男性の声が聞こえたので振り返る。
すると、ベッドの上でシーツに包まれて顔と首だけ出している人物がいた。
「嘘、どうして?」
呟いてから、扉の取っ手から手をはなして尋ねる。
「ど、どうしてあなたがここにいるのよ」
「それはこっちの台詞だよ。どうしてマリアベルがここにいるんだ」
「私は皇太子妃候補に選ばれたからよ!」
「皇太子妃に選ばれたのは、マリアベル・ティアル様だろ!?」
「え? あ、そういうこと!?」
私の目の前に現れたのは学園に通っていた頃、仲の良かった同級生のフェールだった。
久しぶりに会ったフェールは、ダークブラウンの短髪に優しげで綺麗な水色の瞳は当たり前だけれど昔と変わらないし、相変わらず整った顔立ちだ。
彼はこの見た目とやんちゃだけれど優しいということで、同性だけでなく女子生徒にも人気があった。
困惑している彼に叫ぶ。
「違うの! 私は伯父の家の養子になったのよ! だから、名字が変わったの! というか、あなた、もしかして、フェール王子なの!? 学園に通ってた頃は男爵令息だって言ってたじゃない!」
「そうだよ! 学園に通ってた頃は、身分を隠してたんだ」
「……他国の王子がいるとわかったら、命を狙う人間も現れるかもしれないものね」
普通に会話してしまったけれど、それどころじゃないわ。
こんなところを誰かに見られたら大変!
そう思った時、扉がノックされた。
「は、はいっ!」
「あ、僕です。フィーゴです」
「フィーゴ様!」
そういえば、私の部屋に行くと言ってくださってたわね!
フィーゴ様なら、事情を説明したらわかってくださるかしら?
「マリアベル様、お話ししたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「あの、フィーゴ様!」
「はい?」
「少し、お待ちいただけますか?」
「あ、はい」
不思議そうなフィーゴ様の声が聞こえた。
私はベッドに近付き、小声でフェールに話しかける。
「フェール! とにかく事情を説明してくれない? 二人きりだとまずいから、ライリー様の側近の方と一緒に話をしてほしいの!」
「……わかったよ。そのかわり、マリアベルもちゃんと説明してくれよな?」
フェールはそう言って、裸のままだといけないと思ったのか、また、タヌキの姿に戻ったのだった。




