第25話 臨戦態勢と諦めない令嬢
ソニア様と話をしていると、ライリー様がやって来て、今までにわかった情報を教えてくれると言った。
ソニア様は気を遣ってくれたのか、ライリー様と入れちがいに出て行かれてしまった。
別に3人で話をしてもいいのに、2人きりにさせてくれたみたい。
お茶を用意してもらってから、ティーテーブルを挟んで向かい合って座ると、ライリー様がエルベルの今の現状を教えてくれた。
「……エルベルの居場所はわかっているんですね」
「ああ。マリアベルに打ち明けるかどうか迷っていたから、ソニアには曖昧な話をさせていた。ソニアを責めないでほしい。悪いのは俺だ」
「どうして私に隠そうと思ったんですか?」
不満げな表情を見せると、ライリー様は焦った顔をする。
「いや、その、なんというか、もう君はエルベル嬢とは関係がなくなっただろ? だから、彼女について何も知らなくて良いかと思ったんだ」
「気を遣っていただけた事には感謝いたしますが、出来れば真実を知っておきたいです。ですから、ライリー様が知っている範囲で、言わないんじゃなく言えない事以外を話してほしいです」
お願いすると、ライリー様はエルベルが山小屋で彼女を誘拐した人達と話をしていた内容を聞かせてくれた。
「記憶喪失のふりだなんて、あの子に出来るはずがありません」
話を聞き終えた私は、まず一番に伝えないといけない話を口に出した。
そんな器用な事が出来る子なら、魅了は関係なく、私も普通にエルベルを良い子だと思っていたと思う。
でも、そうじゃないと気付けたのは、魅了に対する耐性があった事と、エルベルの性格がワガママで駆け引きなんて出来るわけがないくらいに賢くなかったから。
あの子はまさに本能のままに生きているという感じだった。
お母様が亡くなって、悲しんだ私達だったけれど、お父様と私は悲しみを引きずりながらも、葬儀の事で目まぐるしく動いていた。
その時のエルベルはまだ幼かったので、部屋で大人しくしている様に言うと、「お母様が死んだせいで、皆が私のことを見てくれなくなった」と文句を言った。
お母様に会えなくなった悲しみよりも、自分が相手にしてもらえない事に腹を立てた。
私達と同じ様に悲しんでいれば、彼女を慰める使用人もたくさんいたと思う。
けれど、そんな事を口にするエルベルに対して、逆に屋敷の使用人は必要以上に近付かなくなった。
それなのに、いつの間にか、使用人達はエルベルを甘やかす様になった。
考えてみれば、お母様の葬儀以降かもしれない。
エルベルの魅了の力を感じ始めたのは…。
何にしても、今までのエルベルは頭を使って、人の同情を得た事はない。
その話をすると、ライリー様は私の頭を撫でてくれた後に口を開く。
「魅了の魔法を無意識に使い始めた事により、どんな態度をとっても多くの人間が自分を褒めてくれる事がわかって、自分が何を言っても許されると思い始めたんだろうな。何をしても思う通りになると思い込んだのかもしれない」
「ですから、記憶喪失のふりをしても、すぐにボロが出ると思います」
「で、マリアベルはどうしたいんだ?」
ライリー様は私の答えなんてわかっているはずなのに、にこりと微笑んで聞いてきたので答える。
「もちろん、会います。エルベルに対して言いたいことはいっぱいありますから。記憶喪失だというのなら、彼女が今までに何をしてきたか、教えてあげないといけないでしょう?」
「無駄な労力を使うがいいのか?」
「やられっぱなしは性に合いません。それよりも、ライリー様はキラック公爵令嬢が何か企んでいるとわかっていらっしゃったんですか?」
護衛騎士の人はどうやら、ライリー様の息がかかっているみたいな感じだし、気になって聞いてみると答えてくれる。
「キラック公爵令嬢の侍女が何やら不審な動きをしている事がわかったんだ。だから、念の為に手を打っておいた。もし、馭者や護衛騎士が逃げられない状態になった場合に備えて、手助けする他の騎士達を準備しておいたし、エルベル嬢の身が危険だと判断したら助けにいかせるつもりだった」
「その場で捕まえなかったのはなぜなんです?」
「泳がせて目的を知るためだった」
「危ない真似をしたんですね」
小さく息を吐くと、ライリー様は言う。
「あまりガチガチにしていると敵も動かないからな」
エルベル相手に物騒な事は起こらないと思ったのかしら。
彼女には魅了魔法があるものね。
「ライリー様、ところでキラック公爵令嬢はいつ、エルベルを見つけ出したふりをするのでしょうか」
「そこまではわからない。ただ、そう遅くはないだろうな」
キラック公爵令嬢がどう出てくるのか、さすがのライリー様も予想がつきにくいみたいだった。
まあ、私としては遅かろうが早かろうが、どっちでも良いわ。
エルベルに今までの事をやり返す、良い機会なんだから。
***
「カエラ、私がお前に無関心だった事については言い訳するつもりもないし、謝って許されるものでもないだろうが謝っておく」
キラック公爵は冷たい声でそう言った後、「すまなかった」と謝った。
「そんな…、お父様…、いいんですのよ…」
謝ってきたという事は、自分のほうが有利な状況にあるのかもしれないと感じたカエラは続ける。
「出来れば、ライリー様とわたくしとの結婚をすすめてくだされば…」
「馬鹿な事を言うな!」
怒鳴られたカエラはびくりと体を震わせた。
これほどまでに怒っている父を見たのは初めてだったからだ。
「お…、お父様…?」
「お前は自分が何をやったかわかっているのか?」
「ご、ご、ごめんなさい…」
「お前が何を考えているのかわからないが、エルベル嬢の居場所を知っているなら早く言うんだ」
(お父様は、わたくしの計画の事は知らないのね…?)
カエラの胸に希望が湧き、小さな声で答える。
「エルベルは…」
居場所を伝えると、キラック公爵は部屋を出ていこうとしたが、立ち止まって言う。
「見逃すのは今回だけだ。まだ、おかしな真似をするようなら…」
その先の言葉は言わなくてもわかるだろうと目で訴えていた。
キラック公爵が出ていき、また1人になった部屋で、カエラは思った。
(まだ、まだよ。ライリー様を諦めるにはまだ早いわ)
そして、エルベルが見つかってからしないといけない事をノートに書き出していく事にした。




