第21話 覚えていない人達と入れない人達
日はあっという間に過ぎて、お披露目パーティーの日がやって来た。
その日は朝から、身体を洗い直され、ドレスに着替えさせられ、髪を整えられたりと、当たり前の事をしただけだけれど、いつもよりも念入りに整えられたせいか、パーティー前から精神、体力共に疲れてしまった。
皇后陛下から、こうなるだろうという話を事前に聞いていたので覚悟していたから良かったけれど、何も知らなかったら逃げ出したくなっていたかもしれない。
といっても、逃げ出す事なんて無理なんだろうけれど…。
キス未遂事件からライリー様は、私に対して今まで以上に積極的になってきたので、今日は心臓が持つかどうか心配だわ。
ライリー様に私のどこが良いのかと聞いても「性格も顔も好きだ」としか教えてくれないし。
何かエピソードがあって、その時に好きになったとかならまだしも……。
一目惚れだったり…?
私に?
まさかね……。
それに、ライリー様の私への好きは人間としての好きであって、恋愛感情での好きではないはず。
一目惚れなんてありえないわよね。
「マリアベル様、皇太子殿下がお待ちです」
メイド達はニコニコ笑顔で私の背中を押してくれた。
ダンスのステップの乱れがわかりにくいように裾の長いダークブルーのプリンセスラインのドレスにしてもらったから少し歩きにくい。
でも、しょうがないわ。
だって、今日の主役は私とライリー様だから、絶対に注目を浴びるもの。
今日は色んな人が招待されていて、私の新しい家族ももちろんの事、セイラさん達も来てくれる事になっている。
ただ、ロバートさんは今日は本業を休んで、宿の方の仕事にまわってくれているから来ていない。
でも、ティルさんと一緒に仕事が出来るんだったら、こっちのパーティーよりも仕事の方が魅力的だと思うから良いわよね?
ロバートさんにはとてもお世話になったから、改めてティルさんと一緒に宮殿に呼べたら良いななんて思っている。
「マリアベル様! また上の空になっておられます!」
メイドに言われ、ライリー様が待ってくれている事を思い出して、慌てて部屋の外に出た。
考えたら中に入ってもらっても良かったわね。
今日は長い髪をシニヨンにしているから首元がスカスカする気がして嫌だわ。
なんて、またそんなどうでも良い事を考えた後、待ってくれていたライリー様にお詫びしようとして動きを止めた。
黒のタキシード姿のライリー様はフィーゴ様と話をしていて、私が出てきた事に気付いていなかった。
フィーゴ様は今日のパーティーに出席する事はないので、普段と変わらない姿だけれど、今日のライリー様は正装しているだけでなく、髪型も変えていて、それはまた違った雰囲気で素敵だった。
顔が良い人って何を着ても、どんな髪型をしていても顔は良いのね!
と当たり前の事を考えていると、ライリー様が私に気付いて笑顔を見せた。
「マリアベル! 驚いたな! 全然、イメージが違う。とても綺麗だ」
「それはこちらの台詞です。ライリー様もイメージが違いすぎて驚きです。…それよりも、お待たせして申し訳ございませんでした」
「こんな綺麗なマリアベルが見れるなら待ち時間も苦にならない」
「綺麗じゃない私が出て来たら苦になっていたわけですか」
自分でも可愛くない事を言ってしまったと気付き、慌てて謝ろうとすると、ライリー様はにっと笑う。
「綺麗じゃないマリアベルは可愛いマリアベルって事だろ? だから待てる」
「綺麗でも可愛いわけでもない私だったらどうするんですか!」
「俺にとってはマリアベルが一番だから苦じゃない」
「ぐぬぬ」
「皇太子妃がぐぬぬは駄目だぞ。まあ、身内だけの前なら許せるが」
「申し訳ございません。気を付けます」
普段言わないような言葉が出てしまったのは、それだけ緊張してしまっているのかもしれない。
「マリアベル様、本当にお綺麗です!」
フィーゴ様がパチパチと手を叩いてくれたので、お礼を言おうとしたけれど、ライリー様が私とフィーゴ様の間に入ってくる。
「お前は見るな」
「どうしてですか!」
「お前と俺の顔は似ているんだろ? マリアベルがお前に夢中になったら困る」
子供みたいな事を言うライリー様に呆れてしまい小さくため息を吐く。
「ライリー様、私をなんだと思ってるんですか。別に顔で選んでるわけじゃないんですから!」
「それはそうだろうけど」
「束縛や独占欲は強すぎると嫌がられますから気を付けた方がいいですよ」
フィーゴ様に言われて、ライリー様は少しだけショックを受けた様な顔をした後、「悪かった」とフィーゴ様に謝り、私に手を差し出してくる。
「エスコートしてもいいか?」
「してもらわないと困ります」
苦笑して答えてから、白手袋をしたライリー様の手に自分の手を置いた。
パーティーは予定通りの時刻に開始され、私のスピーチも噛むことなく、無事に言い終える事が出来た。
私にとって、これが一番の難関だったので、ホッと一息ついた。
あとは招待客からの挨拶と、ライリー様とダンスを踊るだけなんだけれど、私達に挨拶したいという人が多すぎて大変だった。
私とライリー様が並んで座っている所の前に行列が出来ていて、一人ひとりがが挨拶して入れ替わっていく。
「覚えていらっしゃらないかと思いますが、マリアベル様が1歳になられるまで、お母様の侍女をしておりました…」
まったく覚えてないわ。
「マリアベル様には学園の廊下でハンカチを拾っていただき…」
これもまったく覚えてないわ。
と、こんな感じで言ってくる人達が後を絶たなくて、笑顔が引きつりそうになっていた時だった。
列の中にキラック公爵令嬢の姿が見えた。
ビークスやエルベルがいるかと思ってドキドキしたけれど、パッと見た限りは姿は見えなかった。
ちらりとライリー様の方を見ると、大丈夫だと言わんばかりに笑顔を見せてくれた。
***
パーティーが始まる少し前のこと。
カエラがパーティー会場にビークス達を連れて入場しようとすると、受付で止められた。
「申し訳ございませんが、一枚の招待状で2人までの入場となっております」
「なんですって!?」
「カエラ、僕と君が入ればそれでいいじゃないか。執事と侍女までパーティーに連れてくるなんておかしかったんだ」
カエラの婚約者は当たり前の様にそう言ったが、カエラは引き下がらなかった。
「4人までは入れるはずですわ!」
「残りのお二人は別会場にご案内させていただきます」
「べ、別会場ですって!?」
「本日はたくさんの方にご来場いただいておりますので、会場が2つに分かれており、その事については皆様にご理解いただいております」
受付係はそう答えると、後ろに控えていた男性に命ずる。
「お二人を別会場にご案内するように。……キラック公爵令嬢とその婚約者であるオブモ侯爵令息がご来場です!」
カエラが何か言う前に受付が叫び、会場内の視線がカエラ達に集まった。
その為、カエラは婚約者に連れられ、会場内に入るしかなくなった。
「ちょ、ちょっと待って! 私達はどうなるの!?」
「そうです! 僕らはどうしてもマリアベルに会わないといけないのに!」
エルベルとビークスが叫んだが、意見は聞き入れてもらえるはずもなく、強制的に別会場へと案内される事になったのだった。




