第1話 皇太子との出会い
婚約者がいるのに、どうして私まで招集されるのかと疑問に思ったけれど、相手は皇太子殿下だから、婚約者がいようとも皇太子殿下が気に入った女性であれば、皇太子殿下を優先させろといったところらしい。
というか、数が多いから婚約者がいる、いないを調べるのにも時間がかかるから、適齢期の未婚女性の貴族をとりあえず集めようと考えたんでしょうね。
どうせ、皇太子殿下が私に興味を持つはずがないだろうし、シュミル家から選ばれる事があるならばエルベルしかいない。
それに私には婚約者がいるんだから目立たないようにするのが一番。
そう思って、招待状と一緒に送られてきた、指定の日時に宮殿まで転移できる魔導具を使って、私とエルベルは皇太子殿下の元へ向かった。
教えてもらって知ったのだけれど、私達が案内された場所は宮殿ではなく離宮にある庭園の一角だとの事だった。
離宮の中庭は、私の家とは比べ物にならないくらいの大きさで、宮殿の庭園と言われても普通に信じてしまえるほどに広かった。
開けた場所にティーテーブルが10個用意されていて、そこでお茶を飲みながら皇太子殿下と歓談し、皇太子殿下に気に入られれば、皇太子妃になれるという簡単だけれど、それで大丈夫なのか心配になるシステムだった。
私達の前に現れた皇太子殿下は黒の軍服姿でシルバーブロンドの短髪にダークブラウンの瞳を持つ眉目秀麗の男性だった。
たしか、今年で20歳になられたはず…。
あまりにも整った顔立ち過ぎて、近付いたらルックスが良すぎて目が潰れてしまいそうな気がしたのと、婚約者がいる私はいくら命令とはいえ、他の男性に媚びたくなかったので、少し離れた場所で傍観する事にした。
皇太子殿下が手持ち無沙汰にされているならまだしも、彼の周りには女性が群がっていたから…。
そして、群がっている女性の1人にエルベルもいた。
お茶を飲みながら、女性達を見守っていると声を掛けられた。
「そこの令嬢」
声が聞こえてきた方向に振り返ると、皇太子殿下と同じ髪色、同じ瞳の色を持つ5、6歳くらいの少年が立っていた。
「ごきげんよう。どうかされましたか?」
笑顔で尋ねると、成長すればさぞ美少年になるだろうと思わせるくらいの整った顔立ちの少年は切れ長の目を私に向けて問いかけてくる。
「皇太子妃に興味はないのか?」
「……そうですね。興味がないというよりかは私には婚約者がおりますので、あまり近付かない様にしているだけです。もちろん皇太子殿下は魅力的な方だとは思いますが……」
「そうか。婚約者の事を思っての行動って事だな。でも、あの中にだって婚約者のいる奴らがいるだろ。彼女達は不誠実なのか?」
少年は皇太子殿下に群がっている女性達を見て首を傾げた。
どうしてここに子供がいるのかしらと疑問に思いつつも、こんなに堂々として私に話しかけているのに、兵士も皇太子殿下の側近らしき方も、皇太子殿下さえも気にした素振りを見せないので、目の前の少年は皇太子殿下の関係者なんでしょうね。
なら、お相手しないと失礼だわ。
「あの、不誠実とまではいかないと思います。その為にここに招集されたのですから。ただ、そうなりますと、私の方が皇太子殿下についての不敬罪にあたるかもしれません」
「どうしてだ?」
「皇太子殿下にご招待いただいたのに、ご挨拶しかしておりません」
自由に歓談する時間の前に、一人ひとりが皇太子殿下に挨拶する時間が設けられたので、その時に挨拶はしたから、帰るときにもう一度挨拶をすれば失礼な態度を取った事にはならないはず。
私は大勢の内の1人で目立ちもしないから、すぐに帰る事ができると思うし。
「別にそれは判断基準にならないし、不敬罪にもならないから安心しろ」
「ありがとうございます。あの、失礼ですが、お名前を聞かせていただいてもよろしいですか?」
「俺の名前はライリーだ」
「………」
本当にそうなのかと聞き返したくなったけれどやめておいた。
ライリーというのは皇太子殿下の名前と同じだから、殿下よりも年下の子供に貴族が同じ名前をつけるとは思えない。
まさか、それを気にしないくらいの家柄の人…?
「私はマリアベルと申します。よろしくお願い致します」
「俺とちゃんと会話してくれた令嬢は君が初めてだ。だから婚約者がいるのは残念だな」
もしかしたら、皇太子殿下に憧れていて、彼の名前を名乗っているだけかもしれない。
子供ってそんなものよね?
そう思うと微笑ましく感じて、私の向かいの席に座った彼と和やかに話をする事にしたのだった。