第12話 共通点
実家に行った数日後、皇太子妃教育もあるけれど、ライリー様に呼び出されたという事もあり、宮殿にやって来ていた。
二重生活をしている事を考慮していただき、テーブルマナーなど、常識的な事についてはすでに学べているだろうという事で、わりと楽なスケジュールにしてもらっているから、大した疲れはない。
ただ、魔力のコントロールの授業は違う意味で疲れるけれど……。
「魔力は上手く扱えそうか?」
「少しずつコントロール出来てきてはいるんですけれど、自分に魔力があると自覚したせいなのか、効力が上がってしまっているみたいで…」
ライリー様の執務室のソファーに座り、私はお茶を飲みながら、ライリー様は執務机で仕事をしながら話をしていたのだけれど、ライリー様の横にある机で仕事をされていたフィーゴ様が小さく頭を下げる。
「……申し訳ございません」
「どうした、フィーゴ。何かやらかしたのか?」
「違うんです、ライリー様。私が悪いんです。フィーゴ様が実験台になってくださったんですが、最初はコントロール出来ていたから大丈夫だったんですが、話をしたり気を抜いてしまうと駄目で、雑談をしていたら、先生がフィーゴ様を好きになってしまいました」
「それなら別にフィーゴが謝る事じゃないな。それにコントロールしたり、離れたりすれば魅了はとけたんだろ?」
「それはそうなんですが…」
申し訳無さそうにしているフィーゴ様に私も頭を下げる。
「申し訳ございませんでした。フィーゴ様は女性が苦手なのに…」
「気にしないで下さい。元々、僕も魔力のコントロールが出来ていなくて、ずっと魅了魔法がかかっていた状態だったんです。そのせいで、色々とありまして…」
元々、ライリー様に似ているし、今も並んでいると、パッと見ただけではどちらがライリー様かわからない。
もちろん、よく見るとはっきりとわかるけど、整った顔立ちという事に間違いはないから、ただでさえ女性に人気のある顔立ちなのに、魅了魔法がかかっていたら、それはもう大人気だったんでしょうね…。
幼い頃の話かもしれないけれど、修羅場に巻き込まれちゃったとかかしら?
「そのせいで、色々とあって、僕は家族に嫌われてました。あ、といっても縁を切られたわけではないでので、余計に腹が立つんですが…」
「……え?」
嫌われていた?
聞き返したい気もするけれど、まだ、フィーゴ様とそこまで仲が良くなったわけではない。
話したくなかったら今の話もしないと思うけれど、今はまだ聞くべき時じゃないわよね。
すると、ライリー様が話しかけてくる。
「それよりもマリアベル。君に聞きたい事がある」
「…何でしょうか?」
カップをソーサーに戻してから尋ねると、ライリー様は応接セットの横に置かれてある大きな茶色の箱を指差した。
「その中を見てくれ」
立ち上がって箱に近付き、言われた通りに中を覗き込むと、封筒がたくさん入っていた。
ぱっと見ただけでも100通以上はありそうな気がする。
「こ、これ、全部、手紙ですか?」
「そうだ」
「……皇太子妃が決まったからですか?」
先日、私が皇太子妃として決まったという事が大々的に発表された。
といっても、マリアベルという名前しか伝えられておらず、家名は発表されていない。ただ、私の知り合いや実家には、相手がわたしであることは伝えられているので、口コミでどこの家名の人間かは知れ渡っていた。
結婚の日取りについては、まだ決まっていないけれど、盛大な結婚式が開かれるという事はわかっている。
そして、その式に参列できる人間も限られていて、ほとんどが国の偉い人やその家族になるけれど、新婦になる人間の親しい人や親戚も呼んでも良い事になっている。
招待してほしくて、まずは私と会おうとしているのかもしれない。
現在、私が住んでいるのはシュミル家ではなく、この宮殿という事になっているので、手紙がこちらに送られてきているみたいだった。
「それは全て君宛だが、危険なものがないか調べる為に開封させてもらった。手紙の内容は読んでいないが、君は知り合いが多いんだな」
「そんな訳ありません!」
ライリー様の言葉を否定してから、箱に入っている封筒を1つ手に取り、書かれている内容を読んでみる。
「学生時代の先生でした。といっても話をした記憶はありません」
ライリー様とフィーゴ様に向かって言った後、次から次へと手にとって内容に目を通す。
「なんか、昔、エルベルと一緒になって私をいじめた子とかが、仲良しだったよね、とか書いてきてるんですが! それにこれ、元婚約者もいます! あ、元婚約者といっても、最近の人ではないです!」
プリプリしながら、聞かれてもいないのに話をしていると、ライリー様が言う。
「いるものといらないものを分けてくれないか?」
「たぶん、いらないものばかりです」
皆、私が皇太子妃になったから連絡してきてるだけでしょ!?
エルベルと仲良くしてた人だけじゃなく、従姉妹の知り合いなんて、私にしてみれば全く知らない人なんだけど!?
「お近付きになりたい人や、いつの間にか私の知り合いだったり、遠い親戚の人がいっぱいいます…」
「そんなものですよ…。僕もそうですが、ソニアもテッカも、まだマリアベル様とは顔を合わせていないハインツも、殿下の側近になると聞いた途端、周りから一斉に手のひら返しをされましたから。ですから、マリアベル様も無視して良いと思います。本当の友達や親戚だと思える人を式にお呼び下さい」
フィーゴ様が苦笑して言った。
もしかして、ライリー様の側近の人達は家の人と上手くいっていなかった人が集まってるの…?
私の手が止まった事に気が付いたライリー様は大きなため息を吐いてから言う。
「フィーゴ、お前は休憩してこい。仕事のしすぎでだいぶネガティブになってるぞ。それから、お前の話をしてもいいんだな?」
「ありがとうございます! そのお言葉を待っていました! あ、僕の話は殿下からお願いします。思い出すのも嫌なんで。ただ、マリアベル様には知っておいていただいた方がいいかと」
「わかった。ソニアにも同じ事を言われているから、お前とソニアの話だけしておく」
「お願いします! では、マリアベル様、失礼いたします」
フィーゴ様は私には恭しく頭を下げてから、笑顔で執務室を出ていく。
「別に俺が無理矢理働かせているわけじゃないからな? あいつは何かきっかけがないと休憩が出来ないんだ」
ライリー様も仕事が一段落したのか腕を回しながら、私の所までやって来ると、いらないと横によけていた封筒の束を見て呆れた表情になる。
「一通もちゃんとした知り合いや親戚からはきてないのか?」
「友人には私から連絡を入れてますので来てませんし、親戚と言われましても、私は父から追い出されましたので…。ただ、母方の親戚については親戚のままでいようかと思っていますが…」
それよりも気になる事があり、手に持っていた手紙を箱の中に戻すと、ライリー様がソファーに座るように促してこられたので、大人しくさっきまで座っていた場所に戻る。
ライリー様は私の隣に座ると、少しの沈黙の後、口を開く。
「俺の側近はフィーゴ、ソニア、テッカ、ハインツの4人だ。国は違うが4人共、公爵家の令息で令嬢だ。そして、もう一つ共通点があって、彼らは幼い頃から自分の家族に厄介者だと疎まれていた」
ライリー様の言葉を聞いて、私みたいなぽっと出の令嬢を、すんなり皇帝陛下やフィーゴ様達が認めてくれた理由がわかった気がした。




