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2話

大輝視点と玲奈視点です。


 1人の男子生徒が階段を上がる足音が異様に響き渡る。その音を聞きながら彼は先程の幼馴染2人の姿を思い浮かべ呟いた。


「・・なんか、良い感じの2人だったな」


 階段を上がり終えて冷たく出迎える鋼鉄製のドアをゆっくり開けると、生温い風に出迎えられた大輝は校舎の屋上へ出て広がる青空を見上げる。


「・・・・もう空を見上げるのも最期・・かな」


 雲一つない青空を見上げた大輝は外は暑いなとポツリと呟き止めていた足を動かし前を見て、その先にある自分の背丈より高い金属製のフェンスへと引き寄せられるように歩いた。


「・・最後の力仕事っと・・」


 ガシャガシャと鳴るフェンスを乗り越え狭い足場に立つ大輝は、視界を妨げる物が無く広がる街並みを眺めていると心地よい風が心を落ち着かせていた。


「生まれ育った街も最期・・あとは、このまま下を見るだけ・・・・」


 上履きを履く時のように足元に視線を向けると、校舎3階より高い場所にいる大輝は地面までの高さに胸の鼓動がドクンッと強く打ち鼓動が速くなる。


 このままあの硬い地面に身体を投じる恐怖に大輝は誰かを意識して、包み込んで来る恐怖心を誤魔化すためスマホを取り出しメッセージを打ち込む。



『 いままでゴメン。玲奈と付き合ってた頃の時間は、今想い出しても凄く幸せだった。ありがとう、玲奈。信治と末長く幸せにね』



 玲奈へのメッセージに謝罪とお礼そして未練を断ち切るため、新しい彼氏と幸せになるよう祝福の言葉を贈り届いたのを確認してから身体を前へと倒しフェンスを掴む両腕を伸ばし、あとは指先の力を抜くだけだ。


「・・・・よし」


 このままパッと手を離してコンテニューするだけだと下を見る大輝の視線の先に、不意に体操服を着た生徒達が校舎からグラウンドへ出る姿に驚きフェンスに背中を勢い良く押し付ける。


「ふぅ・・ここだと誰かを巻き込んじゃうからダメだ」


 最期に自分のせいで誰かを怪我させてはダメだと思う大輝は、場所を変えて今は正面玄関の軒先が真下にある場所に立った。


「・・ここなら、あの軒先が俺を受け止めてくれるはずだ」


 最期の場所を決めた大輝の後押しをするかのように突風のような風が屋上を吹き抜け、そのままフェンスを掴んでいた両手を躊躇うことなく離し全身が浮遊感に包まれる。


「下ばっか見て生きて来たけど、上を向こう、これからは・・・・」


 迫る地面よりどこまでも広がる青空を見ながら最期を迎えようと、決めた大輝は身体を捻り背中側から軒先に寄り添いに行き、何もかもが全周に弾けるような音と衝撃で視界に広がっていた青空が一気に暗転し、暗く深い闇に沈んで行ったのだった・・・・。



 生徒がいない校舎の廊下を大輝からのメッセージを読んだ玲奈が、スマホを片手に1人走り回るも思い当たる場所に大輝の姿は見つからなかった。


「はぁ・・はぁ・・どこ? どこに行ったの大輝・・」


 もう探しに行く場所がないと玲奈は落ち込む中で、もう家に帰ってしまったのではと思いつき靴箱がある正面玄関へと走り大輝の場所の前で立ち止まる。


「・・無い・・上履きも無いよぉ〜」


 大輝へのイジメで通学のため履いて来た靴も上履きも無い靴箱に寄り掛かかり、玲奈は涙声で吐き出しながらどこに行ったのかわからず途方に暮れる。


「・・・・」


 乱れた呼吸を整えながら大輝の靴箱に触れていた玲奈は誰に言われたのでも無く、上履きのまま正面玄関から外へと飛び出すと、ズルッと砂で右足を滑らせたため転けないようなんとか姿勢を保ち止まった直後に上から鈍く大きな音が頭上で鳴り響いた。


「きゃっ! なに!?」


 突然鳴り響いた大きな音に驚きながら振り向き見上げるたと同時に、顔にビチャッと何か液体のようなモノが降り注いだため反射的に目を瞑り下を向く。


「も〜なんなのよ〜こんなときにぃ〜」


 顔に付いた得体の知らない液体が人肌の温度に感じながら玲奈は手探りで、スカートのポケットにあるハンカチを取り出しゆっくり拭い目を開けることができた。


 手にしていたお気に入りの水色のハンカチが真っ赤に染まっている光景に意味がわからず、降って来ただろう空へと見上げる途中にある軒先から太い木の枝のような物が見えて視線を離せない。


「・・え?」


 目に液体が入った影響なのかピントがうまく合わせることができずにいる玲奈は、その枝のようなモノを凝視していると見覚えのある腕時計らしき物だと認識してしまうと、ソレは大輝が普段使いしていた腕時計だと知ってしまった。


 木の枝が人の腕だと脳が認識してしまった玲奈は、腕先から滴り落ちて玄関先を赤く染めていくのが血液だと理解した瞬間に発狂しながら両手で頭を抱え倒れ込み意識を失った・・・・。


 午後の授業中に校内で女子生徒の発狂したような叫び声に、グラウンドで体育授業を受けていたクラスの女子生徒達は急いで声がした正面玄関へと向かうと、玲奈が血溜まりの中でピクリとも動かない光景にパニックとなりながらも体育教師に大声で伝えた。


 駆け付けた体育教師の目の前に血だらけで倒れている女子生徒の姿に、込み上げてくる吐き気に耐えながら救急車を呼ぶため職員室へと走る。その間にも異常に気付いた教師達も集まり、玄関前は騒然となる。


 学校に救急車がサイレンを鳴らし敷地に入って来たことで、授業中の生徒達も何かあったと騒いでいると遅れて警察車両もサイレンを鳴らし数台来てからは授業が成り立たず、途中で休校となった。


 事件と事故の両方で警察の捜査が始まり、それまで倒れていた女子生徒しか見ていなかった学校関係者達の事情聴取が始まっていると、鑑識の警察官が軒先に血痕を見つけたどった先にやっと軒先で動かない大輝が発見された。


 玲奈が緊急搬送された医療機関から女子生徒は血だらけであるも外傷が無いと連絡を受けた警察は、軒先で見つけた男子生徒の飛び降り事件として捜査を切り替え、生徒達への聴取も視野に入れたのだった・・・・。



 市立病院に搬送された玲奈は、その日の夜に意識が回復して病室のベッドの上で目を覚ます。


「・・・・ここは?」


「玲奈ちゃん!」


 ゆっくりとボヤけた視界がハッキリと見えてきた玲奈は、覗き込むように見る母親と視線をを重ねる。


「・・おかあ・・さん?」


「そうよ。痛いところはない?」


「・・うん。大丈夫だよ・・ここは、病院だよね?」


「玲奈ちゃんが血だらけで倒れて病院に運ばれたって、学校から連絡が来たの」


「血・・」


 母親の説明で玲奈は意識を失う直前に見た、血だらけの大輝の腕時計の光景がフラッシュバックし発狂する。


「れ、玲奈ちゃん! 大丈夫よ、お母さんいるから・・」


 発狂しベットから落ちそうになる娘の玲奈を母親は必死で抱き締めるも効果は無く、ナースコールを押して看護師と医師が病室に駆け付けてから落ち着かせることができた。


「・・・・」


「・・玲奈ちゃん」


「ゴメンなさい、お母さん」


「大丈夫よ・・今日は大事をとって、病院に泊まることになったの」


「うん・・」


 玲奈は精神的に不安定な状態だと担当医師から診断されたため、病院で安静することになった。


「お母さん、家に戻って玲奈ちゃんの着替えとか取りに帰るね?」


「わかったよ」


「独りにさせてゴメンね。お母さん、すぐ戻ってくるから・・それと・・・・なんでもないわ」


 玲奈の母親は、幼馴染で彼氏の大輝が学校で自殺したことを伝えようと思うも、先程の不安定な娘の姿を見てしまったため喉元まで来ていた言葉を飲み込んだ。


「なに? 気になるんだけど??」


「ううん。なんでもないわ」


 母親が苦しそうな笑顔で病室から出て行くのを見送る玲奈は、静かすぎる個室ということでテレビの電源を入れた。


「・・・・」


 たまたま夜のニュース番組をただ眺めている玲奈は見覚えのある建物が画面に映し出されると、この高校は自分が通っている学校だと理解した。


 通っている学校で何があったんだろうと玲奈は心配しながら番組をみてると、スタジオにいるキャスターの口から出た言葉に全身が硬直する。



 高校2年生の男子生徒が校舎から飛び降りて、自殺してしまった・・・・と。



 1ヶ月近くもクラスメイトからイジメを受けるも、耐えながら通っていた男子生徒の未来は閉ざされ悲しい結末になり、そのイジメの原因となったキッカケの犯人扱いされるも冤罪だったこと。


 キャスターは悲痛な表情で最後に、悩んでも独りで抱えず近くに話せる人か専用の相談窓口に連絡して解決しましょうと訴えた後に次のニュースへと進行していった。



「・・・・大輝」


 玲奈はあの時にどうして助けを求めて来た大輝に寄り添い、話を聞くことなく拒絶してしまったのかと後悔の念が一気に押し寄せる。


 真っ白なベッドの上で孤独の玲奈は大輝の名前を繰り返し呟きながら目を閉じて、この1ヶ月余りの大輝が見せていた表情の変化が蘇りパッと目を開けると、真っ白なシーツが赤く染まっていき掛布団に血だらけの腕時計が浮かび上がり嘔吐した。


 胃の中が空っぽになったにも関わらず繰り返し嘔吐するも、苦しく悶える声だけが病室に響き渡る中で偶然にもナースコールボタンに指が触れた。



「どうしました?」


 ナースステーションにいた看護師が玲奈の部屋からの呼び出しに応答するも、スピーカーからは呻き声が微かに聞こえるだけで彼女から反応が無いため、急いで病室に駆け付けドアを開ける。


 部屋に酸っぱい匂いが漂う中で、精神的不安定になっている可能性があると引き継ぎで把握していた看護師は、直ぐに当直医を呼び初期対応でなんとか玲奈を落ち着かせ眠らせることができた。


 翌日に退院する予定だった玲奈は、昨夜の騒動の影響で数日入院し問診の結果で担当医から退院を認められた日には既に、大輝の通夜と告別式は終わっていたことを学校関係者の中で玲奈だけ知らされていなかった。


 たった数日だけ帰れなかった自分の部屋に入る玲奈は、もう何ヶ月も戻れなかったような感覚に浸りながら自分のベッドへと倒れ込む。


「・・・・」


 入院していたため母親に取り上げられていたスマホを返してもらった玲奈は、久しぶりに電源を入れると同時に決壊したダムの水が流れ込むかのように着信通知がとめどなく届く。


 未読メッセージのほとんどは心配するクラスメイトばかりで、数十件もの溜め込んでいたメッセージを古い順に読んでいる玲奈の指が止まり、スマホ画面が細く震えた。


 とあるメッセージの差出人が大輝で、件名に絶対に来いと表示され本文には通夜と告別式の詳細が表示されていた。


ガバッとベッドから起き上がりスマホの日時と部屋のカレンダーを確認するも、告別式は既に昨日の夜に終わっていて玲奈が参加する資格さえ残されていなかった。


「大輝!!」


 スマホを握り締めたまま部屋を飛び出す玲奈は、そのまま家を出て大輝の家へと走る。


 やっとの思いで大輝の家に辿り着いた玲奈は、流れ出る汗を拭い苦しい胸を押さながらインターホンの丸いボタンを1回押した。


「・・・・はい」


 しばらくしてスピーカーから大輝の母親の弱々しい声が聞こえた。


「・・あの、玲奈です」


「玲奈ちゃん? ちょっと、待っててね」


 スピーカーへと視線を向けていた玲奈は顔を上げて玄関ドアへと向けると、ゆっくりとドアが開かれ大輝の母親が姿を現す。


「・・玲奈ちゃん、どうぞ入って」


「・・はい、ありがとうございます」


 玲奈は玄関ドアへと続くアプローチを歩き、ドア前に立ったところで鼻腔を刺激する線香の香りに涙が溢れ落ちそうになるのを必死に堪える。


「・・玲奈ちゃん?」


「す、すいません」


「いいのよ。大輝は、こっちよ」


 玄関で立ち止まっていた玲奈を大輝の母親は息子の部屋へと玲奈を案内する。


 階段をゆっくりとした足取りで上がり何度も通っていた大輝の部屋に入った玲奈は、あの頃と変わらない光景に涙が溢れてしまう。


「・・大輝、玲奈ちゃんが来てくれたわよ」


 勉強机に置かれた笑顔を見せる大輝の写真に語りかける母親の姿に、玲奈はその場で土下座をする。


「・・玲奈ちゃん?」


「ゴメンなさいゴメンなさい・・・・私が、あの時・・ちゃんと大輝の話を聞いていたら・・彼女の私が聞いていたら・・・・」


 もうこの世に大輝がいないことと、彼の母親の生気のない姿に玲奈は謝ることしかできなかった。そんな玲奈の姿を見下ろす大輝の母親は、無言のまま横に座り彼女の背中に右手をそっと置いて口を開く。



「玲奈ちゃん、もう大輝は帰って来ないの。もう、お母さんただいまって言ってくれないの・・・・泣きそうな笑顔でね、行ってきますって言う大輝を・・おばさんは見送ったままなのよ」


「・・・・・・」


 この場で罵声を浴びた方がマシだとかんじてしまった玲奈は、静かに告げる母親に胸を深く抉られていく感覚に陥り言葉にならない声で謝り続けるも届く事はない。


「それとね、おばさん・・・・玲奈ちゃん達が大輝にシタことを全部教えてもらったの。だから、血だらけの大輝のスマホで玲奈ちゃんにお別れの日を教えたんだけど・・入院してたのね?」


 その言葉を聞かされた玲奈は、恐怖の余り全身から血の気が引く感覚に包まれ、末端の感覚が無い中で背中から頭に置かれた手が離れ右頬を触れられた瞬間に異様な程の冷たさに玲奈はさらに怯える。


 その氷のように冷たい指先で顔を強制的に上げさせられ上半身も起こし、輝きを失った黒い瞳と視線が重なり逸らせない。


「・・最期のお別れに、大輝に御線香をあげてくれる? 玲奈ちゃんの分も一緒に・・・・」


「・・はい」


「ありがとう玲奈ちゃん。こっちよ・・」


 大輝の部屋から出た玲奈は1階にある和室へと連れて行かれると、そこには真新しい仏壇が置かれてあった。


 彼の部屋にあった写真とは違うモノが遺影として飾られ、対面する玲奈はジッと見つめていたせいで音もなく和室を出た大輝の母親に気が付いていない。


「・・大輝」


 玲奈は大輝の顔を見ながら名前を呼ぶも返事は無く、いつも触ってくれていた彼の温もりすら無い部屋で泣き続けていると、大輝の母親が玲奈に話しかける。


「・・・・玲奈ちゃん、大輝の思い出を整理していたらあなた宛の手紙があったの」


「大輝が、わたしに?」


 差し出された封筒を受け取り中身を取り出すと、メッセージカードが入っていた。




・・玲奈へ・・


 2年目を迎えた玲奈と、これからもずっと俺は一緒に楽しく過ごしたいです。大好きだよ玲奈。記念日は学校だから、週末に一緒に遊びに行こう。お揃いの何かを買えたらいいな。


・・大輝・・


 

「・・あの日の前に大輝はソレを書いていたみたいなのよ。貴方に振られてからも捨てられず大事に机の引き出しの奥にしまわれていたわ・・・・もしかしたら、いつか玲奈ちゃんと復縁できると思っていたのかも。それと、デートで渡すはずだった貴方へのプレゼントよ」


 大輝の母親は、玲奈の足元に綺麗に包装されたままの白い箱を置く。


「こんな私が受け取る資格なんて・・・・」


「コレは大輝が玲奈ちゃんに贈るモノだったの・・受け取ってね?」


「・・はい」


 玲奈は手に取ると大事そうに胸に抱き締める。


「・・・・玲奈ちゃん、もうこれ以上おばさんは耐えれないから、帰ってくれる?」


「はい・・」


 玲奈は震える足をなんとか動かし立ち上がった後に、深く頭を下げてから大輝の家を出る。


 気付けばもう空はオレンジ色に染まり夕方になっていたため、玲奈は自分の家へと向かい歩いて帰るも足取りは重く、なかなか自分の家が見えてこないと思っていた玲奈は、いつの間にかその足取りは通っている学校へと向かっていたのだった・・・・。


次話で完結します。



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― 新着の感想 ―
[一言] >>・・最期のお別れに、大輝に御線香をあげてくれる? 玲奈ちゃんの分も一緒に・・・・ 玲奈が殺されるのかと思った。 玲奈ちゃんの分も は、いらんのでは??
[気になる点] 親は信じてくれてたのに自殺? 親からも信じてもらえてなかったら自殺する流れも納得できたのにな。 このあと誰が責任取ったのかねぇ。
[気になる点] 親が全面的に信じてくれてたから、辛いなら登校しないという選択肢もあっただろうに、自殺とは物語とはいえ親にも辛い選択だな。 [一言] 冤罪かけたクラスメイト、教師教頭などにもしっかり裁き…
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