第96話・動き始めた運命
シャロたちの8日に渡る勉強期間が終わった翌日、アースラたちは冒険者組合のガリアから特別要請を受け、リーヤの南にあるカルミナ村の村長の家に居た。
「皆様、今回は急な依頼を受けてくださり本当にありがとうございます、私はこのカルミナ村の村長ポドムと申します」
「冒険者組合の要請で来たアースラ・ティアーズベルだ」
「ヒストリア・シャーロットです」
「シエラ・リース・クロエです」
「フルレなのだ、そしてこやつはモコなのだ」
「組合からは仙草ムーンティアーの収穫が終わるまでの間モンスターの襲撃から村を守ってほしいと聞いているが、もう少し詳しく仕事の内容を聞かせてほしい」
「はい、この村は毎年寒い時期が近づくとモンスターに収穫物を狙われているのです。他の町や村と同じで守護の結界はありますが、この時期は特に強いモンスターがやって来ますので、結界が破られた時のための備えと、ムーンティアーを含めた品の収穫を終えアストリアで品を卸て村へ帰るまでの間、モンスターの襲撃からこの村と村人、収穫する品を守ってほしいのです。もちろん売りに行く際の護衛料は別に支払いますのでそこはご安心ください」
「ずいぶんと気前がいいな。それにしても、この辺りのモンスターはこんな小さな村の食料を狙わないといけないほど食い物に困ってるのか?」
「し、師匠、そんな言い方は失礼ですよ」
相変わらずのアースラに対してシャロがそう言うと、村長は苦笑いを浮かべながら口を開いた。
「いやいや、小さな村なのは事実なので気にしておりませぬ。ただ、モンスターが襲って来る理由はお腹を空かせているからではなく、この村で栽培しているムーンティアーが目的なのですじゃ」
「私、ムーンティアーって植物があるなんてこの依頼を受けて初めて知りました」
「そうでしょうな、ムーンティアーはこの村だけで栽培されている貴重な薬材植物で一般には出回っておりません、ですからあまり知られていないのも無理はありませんな」
「この村だけで栽培? どうして他の場所では育ててないんだ?」
「これまで幾度か他の土地での栽培を試みてはみましたが、なぜか他の土地ではまったく育たなかったのですよ」
「なるほど、理由はよく分からんが、ムーンティアーはこの村の風土でしか育てることができないってわけか」
「そういうことですな、そしてムーンティアーが村で得られる年間収入の約六割を占めているので、どうあってもモンスターに取られるわけにはいかないのですじゃ」
「年間収入の六割ですか!? 確かにそれならモンスターに取られるわけにはいきませんね」
「だな、ところで村長、ムーンティアーの収穫まではあとどれくらいなんだ?」
「今の感じですと、だいたい35日から40日くらいと言ったところですな」
「分かった、ところで仕事をする間、俺たちはどこに寝泊まりすればいい?」
「この村には警備者専用の宿舎がありますので、そこを自由にお使いくだされ」
「了解した、ところで俺たちの前任者はまだ来ないのか? 早いところ引き継ぎの話をしたいんだが」
「実は前任者の方は皆さんと入れ違いで村を出て行きました、ですからこうして皆さんに来ていただいて本当に助かりました」
「村長ー! 大変だー!」
唐突に家の外から激しく鐘を打つ音が響き、続けて男の野太い声と慌ただしい足音が近づいて来た。そしてその足音が村長宅の出入口の前まで来ると、荒々しく古びた木製の扉が開かれた。
「村長! 凄い数のモンスターが村に向かって来てる!」
「何じゃと!? 数はどれくらいじゃ?」
「今までに見たことがない数だ! 俺が見ただけでも五十は超えてた!」
「村長、話の続きはあとにしよう、俺たちはすぐにモンスターを迎え撃つ」
「分かりました、よろしくお願いします」
「よし、行くぞ!」
こうしてアースラたちは群れを成してやって来ているモンスターたちを迎え撃つため、村の外へ向かって行った。




