第93話・答えの推理
モコと名乗るファジーロッパーが念話を使ったことを受け、シャロとシエラを叩き起こしたアースラは、とりあえず起こすまでの間にあったことを二人に話して聞かせた。
「なるほど、話はだいたい分かったけど、どうして急に念話が使えるようになったんだろうね?」
「確かにそうですよね、ファジーロッパーが念話を使うなんて話は聞いたことがありませんし」
「モコ、俺たちの言葉がはっきりと分かるようになったのはここで起きてからなのか? それともその前からなのか?」
『ここで起きてからだよ、アースラお兄ちゃん』
――モコ君の話しから考えると、昨日から今日までの間でこんな変化を起こす何かがあったってことになるのか。
そう思ったシャロは昨日アースラとフルレから聞いた話を思い出しながら、その中にモコが念話を使えるようになった何かがないかと考え始め、その先で一つの可能性に行き着いた。
「そういえばフルレさん、昨日森の中で泉の水を飲んだって言ってましたよね?」
「うむ、言ったのだ」
「その泉ってどんな感じでしたか?」
「どんな感じとはどういうことなのだ?」
「例えば何かおかしなところがあったとか、不思議に思うことがあったとか、飲んだ水が変わった味がしたとか」
「おー、そういえば飲んだ水はちょっと甘い味がしたのだ」
「モコ君も同じですか?」
『うん、甘い味がしたよ』
「なるほど……師匠、もしかしたらモコ君が念話を使えるようになったのは、移動する精霊泉の水を飲んだからかもしれません」
「なるほど、確かにそれなら念話が使えるようになる可能性はあるな」
「ですよね!」
――もしもシャロの推測が正しいとしたら、モコが魔獣の浸食を受けてなかった理由にもなるな。
「ねえシャロちゃん、その移動する精霊泉って何なの?」
「だいぶ前に師匠から見せてもらった伝承の本に書いてあったんですけど、移動する精霊泉は世界各地の森の中に突然現れる神秘の泉で、そこには沢山の精霊の力が宿っていると言われているんです。そしてその移動する精霊泉の水を飲むと、あらゆる負の状態変化に強い耐性がつく上に、心の中で強く思っている変化が得られると伝えられているんですよ」
「心の中で強く思っている変化……てことは、その泉の水を飲んだモコ君が私たちと話したいと強く思ったから念話が使えるようになったってことかな?」
「フルレとモコが飲んだ水が本当に精霊泉なら、間違いなくそれのおかげだろうな、それ以外に理由らしい理由が思いつかん。フルレ、その泉があった場所は覚えてるか?」
「うむ、覚えておるのだ」
「それなら一度その場所へ行ってみるのが早いだろうな、移動する精霊泉がまだそこにあるかは分からんが」
「だね、私も精霊泉がどんなのか見てみたいし」
「私もです」
「決まりだな、フルレ、泉があった場所まで案内できるか?」
「うむ、大丈夫なのだ」
「よし、それじゃあシャロ、急いで猫飯亭へ行って適当に持ち帰りの弁当を頼んでおけ」
「えっ? みんなで食べに行かないんですか?」
「モコを連れたまま猫飯亭に行くつもりか?」
「あ、そっか、そうでしたね。分かりました、すぐに着替えて行って来ます」
「シャロ、シエラがすぐお腹一杯になるように、持ち運びが楽で腹に溜まりそうな物を頼んどけよ」
「ベル君は一言余計だよ!」
こうして猫飯亭に弁当を頼みに行ったシャロが戻ったあと、アースラたちは準備を整えてから猫飯亭へ向かい、シャロが頼んだ弁当を受け取ってから移動のためのウーマを借りに向かった。




