第88話・幼女悪魔の逃走
町に留まるとファジーロッパーが殺されてしまうと思ったフルレはそのままリーヤを飛び出し、広い平原をファジーロッパーを抱き抱えたまま彷徨い歩いていた。
しかし町を飛び出して来たはいいものの、行く当てがないフルレは困り果てていた。
「そちのような大人しいモンスターにさえ怯えるとは、人間とはどこまで臆病なのだ」
そんなことを言いながらしばらく平原を歩いていると、抱き抱えてるファジーロッパーが突然キュウキュウと鳴き始めた。
「どうしたのだ、何を鳴いておるのだ?」
暴れこそしないものの、キュウキュウと鳴き続けるファジーロッパーが何を思って鳴いているのか分からず、フルレはその場で足を止めて困惑し始めた。
するとしばらく鳴き続けたファジーロッパーは突然フルレの腕から飛び下り、どこかへ向かってピョンピョンと跳ね進み始めた。
「どこへ行くのだ?」
その問い掛けに立ち止まってフルレの方を見たあと、ファジーロッパーは再び前を向いて跳ね進み始め、フルレはそんなファジーロッパーのあとをついて行った。
そしてファジーロッパーのあとに続いて歩くことしばらく、入り込んだ森の奥へと進んだフルレは、綺麗な泉が湧いている場所へと辿り着いた。
「綺麗な場所なのだ」
フルレがそう呟くと、ファジーロッパーは高い木々に守られるように囲まれた泉へ向かって跳び進み、その際で止まって泉の水を飲み始めた。
「喉が渇いておったのか?」
フルレの問い掛けにファジーロッパーは水を飲むのを止めて振り向き、応えるようにして頭を小さく頷かせてから再び水を飲み始めた。
「ではフルレも喉を潤すとするのだ」
フルレはファジーロッパーの隣へ行ってしゃがみ込み、両手で掬った綺麗な水を口にした。
「甘みがあって美味しいのだ」
町で飲む水と違って好みの味がすることに感激したフルレは、そのあと何度か泉の水を掬い上げてゴクゴクと飲んだ。
「美味かったのだ、今度ベルたちも連れて来てやるとするのだ」
そう言って隣へ視線を向けると、そこにはもうファジーロッパーの姿はなかった。
「あやつはどこへ行ったのだ?」
フルレはいつの間にか姿を消したファジーロッパーを捜して泉の周辺を回ったが、どこを捜してもその姿はなかった。
そして消えたファジーロッパーを捜してしばらく経った頃、森の奥深い場所からただごとではない感じの鳴き声がいくつも響いてきた。
「な、何なのだ!?」
その鳴き声を聞いたフルレは魔力を解放して漆黒の翼を出し、空高く飛び上がってから凄い速さで鳴き声がして来た方へと向かって行った。




