第87話・幼女悪魔と小さな出会い
「聞いたことがない声が聞こえるのだ」
図書館で勉強を始めてから7日が経った朝、猫飯亭で食事を終えた三人が図書館へ向かっていると、突然フルレが路地に入って奥へと進みその途中でしゃがみ込んだ。
そんなフルレの行動に慌てたシャロとシエラは、しゃがみ込んでいるフルレに急いで近づいて行った。
「フルレさん、急にどうしたんですか?」
図書館に通い詰めて勉強を続けた結果、周りに人が少ない時はシャロが魔界語でフルレに話し、フルレもシャロたちと話す時はなるべく人語で話すということを行っていた。
そしてシエラが提案した勉強方法を実践し続けた結果、二人は短期間で急速に言葉を覚え、お互いに日常会話をこなせるまでになっていた。
「リアよ、こやつは何なのだ?」
狭い路地でしゃがみ込んでいたフルレはそこで見ていたものを指差しながら体を半回転させ、やって来たシャロに小首を傾げながらそう問い掛けた。
それを見たシャロがフルレの指差した場所へ視線を向けると、そこには木箱に入った大きな垂れ耳のふかふかな毛並みをした、大人の両手ほどの大きさの四足生物が赤く綺麗な瞳でフルレたちを見ながらブルブルと小刻みに震えていた。
「これはファジーロッパーの子供ですね」
「ファジーロッパーとな? それにしても、そちはどうして震えておるのだ?」
フルレは木箱の中に居るファジーロッパーに両手を伸ばし、震える小さな体を抱え上げた。
「あっ、見た目は可愛らしくてもモンスターなので十分に気をつけてくださいね」
「分かったのだ」
シャロの言葉に返事をすると、フルレは何の躊躇もなくファジーロッパーを胸に引き寄せて抱き包んだ。
「温かくてふわふわでとても触り心地がいいのだ」
「フルレさん、そんなことをしたら危ないですよ」
「しかしこやつは大人しくしているのだ」
「ホントだね、ファジーロッパーは大人しいけど警戒心が強いから、抱かれたりしたら暴れるはずなんだけど、もしかしたらフルレちゃんのことが好きなのかもしれないね」
「ほー、そちはフルレが好きなのか?」
シエラの言葉を聞いたフルレは、ファジーロッパーの顔が自分の正面を向くように向きを変えた。
「どうした、なぜ答えないのだ?」
「フルレさん、モンスターとお話はできませんよ」
「そうなのか?」
「人語を理解できるモンスターはそれなりに居るみたいですけど、会話ができるモンスターはかなり限られているんですよ」
「そうなのか、それではこやつも図書館へ連れて行き一緒に勉強をすれば良いのだ。そうすれば言葉を覚えるし、フルレたちと話せるようになるのだ」
名案だと言わんばかりにそう言ったフルレだったが、そんなフルレに対しシエラは申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「フルレちゃん、残念だけどファジーロッパーを図書館に連れて行くのは無理かな」
「なぜなのだ?」
「エオスでモンスターは恐れられる存在だし、図書館に連れて行って暴れたりしたら大変だからね」
「そんなことはフルレがさせないのだ、それにこやつのことは動物だと言って誤魔化せばいいのだ」
「でもフルレさん、図書館内は動物の持ち込みも禁止なので、どちらにしても一緒に入ることはできないんですよ。それにこの件はリーヤの治安維持隊に伝えて対処してもらった方がいいと思うんですよね」
「でもそれだと、最悪の場合殺されちゃうかもしれないよ? これでも一応モンスターだから」
「それは駄目なのだ、フルレはこのもふもふを気に入ったから一緒に連れて行くのだ。誰にも殺させたりしないのだ」
そう言うとフルレはファジーロッパーを再び胸元に寄せて抱き、誰にも渡さないと言った感じで走り始めた。
「ちょ、ちょっと待ってください! フルレさん!」
「どこへ行くのフルレちゃん!?」
突然どこかへ向かって走り始めたフルレに驚き、二人は急いでそのあとを追ったが、小さな体の上にとても足が速く、最終的に二人はフルレを見失ってしまった。




