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第86話・お嬢様と大悪魔

 怪しげな男のあとについて行ったフルレは、その先にあったスラム街の朽ちた屋敷の一室に連れ込まれていた。


 ――こんな状態で待たねばならぬとは、人間の作法はよく分からんのだ。


 両手を縛られ猿轡さるぐつわをされた状態で部屋にある椅子に座らされていたフルレは、部屋の外で見張りをしている男の言葉もこんな状態にされた意味も分からずにいたが、未だに何を貰えるのだろうかとワクワクしながら大人しく椅子に座っていた。

 そしてフルレが大人しく何か貰えるのを待つ中、部屋の外で見張りをしている男たちがまた会話を始めた。


「それにしてもあのガキ、こんな状況なのに落ち着いてるよな」

「そうだな、普通ならもっと怖がったり泣き喚いたりするもんだがな」

「もしかして誘拐されたことに気づいてないとか?」

「バーカ、いくらガキでもこの状況でそれが分からんことはないだろ」

「はははっ、だよな」


 よもや部屋の外から聞こえてくる会話がそんな内容だとは知るよしもないフルレは、ワクワクする気持ちを募らせながら大人しく待っていた。


 ――それにしても遅いのだ、いつまで待たせる気なのだ?


「オラッ! いい加減大人しくしろっ!」

「んんーーっ!!」


 一人にされることしばらく、部屋の外から騒がしい声が聞こえ、そのあとでフルレと同じ状態にされたきらびやかな服装の女の子が部屋に放り込まれた。


「しばらく大人しくしてろっ」

「んーっ! んんーーっ!! ん!?」


 部屋に放り込まれた女の子は助けを呼ぼうと必死で声を上げようとしていたが、大人しく椅子に座っているフルレを見て驚きの表情を浮かべた。


「んんん(あなた)、んんんんんんんんんんんんんんんんっ!!(どうしてそんなに落ち着いてるのよっ!!)」


 ――こやつはいったい何を言っておるのだ?


 女の子が焦ってもがいている理由が分からず、フルレはそのまま女の子のことを静観し続けた。そしてそこから1時間ほどが過ぎた頃、女の子を部屋に放り込んだいかつい男とその仲間たちが部屋へ入って来た。


「へへっ、身代金は手に入ったし、お前にもう用はない」

「んんーーっ!!」


 男はそう言うと携えていた剣を引き抜き、女の子に向かってそれを振り上げた。


 ――こやつら、この娘を殺そうとしておるのか?


「ダークカッター」


 いとも簡単に拘束を解いたフルレは即座に魔法を放ち、女の子に振り下ろされようとしていた剣を根元から切り落とした。


「こ、このガキ魔法士マジックエンチャンターだったのか!? くそっ! お前らこのガキを先にるぞ!」

「「「「おうっ!」」」」

「このフルレに刃を向けるとは、命知らずにも程があるのだ」


 まさかフルレが魔法を使えると思ってなかった男たちは焦った様子でフルレに襲いかかったが、魔界の大悪魔にごろつきの人間がかなうはずもなく、男たちはあっさりと制圧されてしまった。


「本来ならその命をもぎ取ってやるところなのだが、ベルたちとの約束があるからこの程度で済ませてやるのだ。しかし次は無いものと思うのだ」


 そう言うとフルレは拘束されていた女の子の縄を解いた、すると女の子は大粒の涙を流しながらフルレに素早く抱きついた。


「そんなことができるならもっと早く助けなさいよねっ!」

「な、何なのだ!?」

「あなた聞いたことがない言葉を喋ってるけど、もしかして亜人種なの?」


 言葉の意味が分からないフルレは女の子の言葉に小首を傾げた。


「そっか、言葉が分からないのね、まあいいわ、とりあえず今はここから出ましょう」

「どこへ行くのだ!?」


 女の子は慌てた様子でフルレの手を引いて外へ抜け出し、そのまま人通りの多い表通りへと向かった。すると表通りへ出たところでお付きの者を見つけた女の子は、フルレから手を離して走り寄って行った。


「爺っ!!」

「お嬢様っ!? よく御無事で、爺は死ぬほど心配しておりましたぞ……」

「心配させてごめんなさい」


 ――よく分からぬがそろそろ帰って寝るとするのだ。


 こうして偶然にも誘拐事件を解決したフルレは、女の子に何も言うことなく宿屋へと戻って行った。

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