第85話・夜の町は誘惑がいっぱい
図書館での勉強を始めてから三日目、溢れ出る興味と好奇心を抑えきなかったフルレは、シエラとシャロが眠ったのを見計らってから一人で夜の街へと抜け出した。
「やはり人間たちの暮らす場所には面白い物が多いのだ」
明るい時とは違った姿を見せる夜の街はフルレの好奇心を揺さぶるにはとても刺激的で、いつもは見ない屋台がずらりと立ち並び、フルレはそんな店へ次々と立ち寄っては楽しそうにしていた。
「お嬢ちゃん、こんな時間に一人で買い物かい?」
立ち寄った果物屋でフルレが物珍しげに品を見ていると、大きな体をしたおじさん店主がにこやかな顔で声を掛けて来た。
――やはりリアたちが居ないと何を言っているのかよく分からんのだ。
「どうしたんだい?」
「アンタの図体がでかいから怖がってんでしょうが」
言葉の意味がほとんど理解できないでいると、隣で店を出していたおばさんが顔を覗かせながらそんな言った。
「おいおい、俺の図体がでかいのは関係ないだろ?」
「こんな小さな子から見たら怖いに決まってるでしょうが、ごめんね、ウチのが怖がらせちゃって、これあげるから許してやってね」
おばさんはおじさんの店にある赤い果物を一つ手に取ると、それを持ってフルレの前まで行き、視線を合わせながらその果物を手渡した。
「もしも一人で来てるなら早くお家に帰るんだよ、夜の街は危ないことも多いからね」
――手渡されたから受け取ってしまったが、これがシエラから聞いた贈り物というやつなのか?
「……ありが、とう」
「どういたしまして」
たどたどしくはあるが覚えた感謝の言葉を口にすると、おばさんはにっこりと笑顔を見せて店へ戻った。
そして貰った果物を食べながら他の屋台にも顔を出していると、水色のドレスを着ている小さく可愛らしいフルレは人目を引くのか、立ち寄る店の多くで色々な物を貰っていた。
「こんなに沢山の食べ物をくれるとは、人間たちは思っていたよりもいい奴が多いのだ」
「お嬢ちゃんお嬢ちゃん、ちょっとこっにおいで」
受け取った食べ物を食べながらご満悦の表情で歩いていると、人気の無い裏路地から怪しげな男がフルレに声を掛け手招きをしていた。
もちろんフルレにその男の言葉は通じてなかったが、その様子はこれまで沢山の物をくれた人たちがしていた仕草と同じだったので、フルレは何の疑いも持たずに手招きをする男のもとへと小走りで向かった。
「お嬢ちゃん一人? 誰かと一緒に来たんじゃないのかな?」
何かをくれるのだと思っているフルレは男のそんな言葉に何度か頭を頷かせた。
「そっかそっか、それじゃあおじさんについておいで、いい物をあげるから」
そう言うと男は更に人気の無い方へと向かって進み、フルレは何の疑いも持たずに男のあとについて行った。




