第74話・悪魔様とのご対面
「シャロ! シエラ! 準備はいいかっ!!」
「大丈夫だよっ!」
「大丈夫です!」
「行くぞ! ディストラクションフレア!」
「「えーいっ!!」」
アースラが氷結結界に向かって魔法を放つと、シャロとシエラは取り出していた倍化玉をそれぞれ投げ放った。するとアースラの魔法と二つの倍化玉がほぼ同時に結界に当たって弾け、ガラスが壊れるような大きな音が辺りに響いた。
「これが倍化玉の威力ですか……」
「結界はどうなったの?」
シャロとシエラがそれぞれに成り行きを見守っていると、結界を包んでいた爆炎が徐々に晴れ、ようやくその中が見えてきた。
「ケホケホッ!!」
爆炎の煙りが薄れて周囲の音が静まってくると、結界があった場所の中央部から咳き込む幼い女の子の声が聞こえてきた。
「あの子がフルレティ、ですか?」
「小さな女の子、だよね?」
「だな」
結界の中心で咳き込んでいたのは、美しい黒髪のツインテールにヤギーに似た後ろに向けて丸く曲がった角、黒い翼に先の尖った尻尾が生えている、シャロよりも小さな水色のドレスを着た幼女だった。
「ケホケホッ! ケホケホッ!」
「おい、大丈夫か」
シャロとシエラをその場に留まらせたアースラは、その幼女に近寄って声を掛けた。
「だ、大丈夫なのだ! これくらいなんともないのだっ!」
「あー、その、一つ聞きたいんだが、さっきまで話してた悪魔フルレティさんで間違いないか?」
「ケホッ、間違いないのだ、我こそがフルレなのだ!」
スッと立ち上がった幼女は両手を腰に当て、見事なドヤ顔で金色の右目と銀色の左目をぱちくりさせた。
「……ところで、結界を消したら俺の話を聞くって約束は守ってくれるんだろうな」
「もちろんなのだ、悪魔は嘘はつかないのだ、どんな話か言ってみるといいのだ」
「俺の話は大したことじゃない、このまま大人しく魔界に帰ってほしいってだけだ」
「勝手に呼び出しておいて今度は帰れとは、人間とは本当に舐めた生き物なのだ」
「その感想については同意するが、別に俺が呼び出したわけじゃないしな」
「確かにそうなのだ、しかし呼び出された上にもう帰るなど面白くないのだ……そうなのだ! そち、フルレはお腹が空いているのだ、何か美味しい物を馳走せい、そしたら魔界へ帰ることを考えてやってもよいのだ」
「何で俺がそんなことをしなきゃいけねえんだ」
「だったらフルレはここで憂さ晴らしを続けるのだ」
素っ気ないアースラの言葉を聞いたフルレティは、いじけた子供のように膝を抱えてしゃがみ込み、頬を膨らませた。
「はあっ、わーったよ、とりあえず町で何か食わせてやるから、まずはその角と翼と尻尾をどうにかして隠してくれ」
「どうしてなのだ?」
「その姿を町の奴らが見たら、ビッて逃げ出して料理を食べられなくなるからだよ」
「なんと、それは困るのだ」
そう言うとフルレティは急速に魔力を抑え始めた、すると角と翼と尻尾が順に消え始め、最後には全てが見えなくなった。
「これでいいのか?」
「ああ、十分だ」
「ではさっそく美味しい物を食べに向かうのだっ!」
「おい、勝手に行くんじゃねえよ」
アースラはにこやかな笑顔でウーマの方へ駆け出したフルレティに声を掛けたが、フルレティはその言葉を聞いても立ち止まることなく、ウーマの方へ走り進んで行った。




