第72話・作戦会議
「あっ、師匠、こっちです」
アースラが町の外で用事を済ませてから猫飯亭へ行くと、その姿を見たシャロが声を掛けてきたので、アースラはすぐに二人が居る席へ向かって空いている椅子に腰を下ろした。
「待たせたな」
「いえ、私たちもついさっき来たばかりです」
「そうか、それならさっそく話を始めるぞ」
「その前にベル君、怪我とかなかった? 大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ、結果としてフルレティに直接会うことはできなかったが、話はできた」
「フルレティと話をしたんですか!? いったいどんな話を?」
「それは今から話す、だから話を遮らずに最後まで聞け」
「分かりました」
フルレティと交わした約束があったアースラは、そこから一人で行動していた時の顛末を簡潔に話して聞かせた。
「そんな約束を悪魔とするなんて、師匠はどこまで神経図太いんですか」
「相手から条件を吹っ掛けてきたんだ、俺のやった行動は至極当然のことだろうが」
「いや、普通はそんなことを言われても、はいそうですか――って納得はしませんよ、しかも悪魔を相手に」
「そこはシャロちゃんの言うとおりだと私も思うな」
「そんなことは今はどうでもいい、とりあえず氷結結界を消せばフルレティは話を聞くって言ってんだから、それでいいじゃねえか」
「そうは言いますけど、何か方法はあるんですか? 師匠の力でも結界は消せなかったんですよね?」
「それは心配しなくていい、とりあえず必要な物は揃えたからな」
そう言うとアースラはマルロから借りた倍化玉を二つを道具袋から取り出し、そっとテーブルの上に置いた。
「何それ?」
「これは魔法玉の一種で倍化玉、詰め込んだ魔法の威力や効力を倍にできる道具だ」
「それってもしかして、さっきの商人さんから買ったんですか?」
「買ったと言うか、使って望んだ効果が出れば金を支払う感じだな」
「見たところ凄い魔力を内包してるけど、凄く高いんじゃない?」
「一個で五百万グランとか言ってたな」
「五百万グラン!? それって特級錬金術師が作った最高級の魔道具が二つ三つ買える金額じゃないですか!」
「そうだな」
とてつもなく驚いた表情で椅子から立ち上がったシャロに対し、アースラはあっけらかんとそう答えた。
「そうだなって、そんな金額を払ってでもその道具が必要なんですか?」
「フルレティの氷結結界は俺の力だけで消し去るのは難しい、あの三面結界は一方向から攻撃をして砕いてもすぐに復元するし、特定の属性攻撃をしないと効果が薄いことも確認している。だからあの結界を消し去るには結界の三面から別々かつ、しかもかなりの魔力で一斉に特定属性の魔法攻撃をしないと駄目なんだ」
「それでこの倍化玉を使わないといけないってわけ?」
「そういうことだ、つーわけで二人には俺が指定した魔法をこの倍化玉に詰め込んでもらう」
「それはいいんですけど、そんなに強い魔力を込めた攻撃じゃないといけないなら、私じゃなくて師匠が魔法を詰め込んだ方がいいんじゃないですか?」
「それでいいならそうするが、あの結界は互いに反干渉し合う魔力波を当てないと完全に砕くことができないんだよ」
「でも師匠やシエラさんに劣る私の魔力で大丈夫ですか?」
「いいかシャロ、お前が俺やシエラに現時点で大きく実力が劣っているのは確かだが、お前は俺から見ても類まれな才能を持つ魔法士でもある。だから余計なことは考えずに持てる力の全てをその中に注ぎ込めばいい、それにお前が強くなるための修行をつけてるのは俺なんだ、自信を持て」
「……分かりました、頑張ります!」
「よし、それじゃあ二人にはこれから町の外に出てもらって、その倍化玉に魔法を詰め込んでもらう」
アースラが席を立つと、二人は同時に頭を縦に頷かせてから席を立った。




