表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/145

第6話・持つべきは優れた師匠

 魔獣と遭遇してしまったシャロは森の外へ向かって走っていたが、追う立場を経験していても、追われる立場になったことがないシャロは上手く逃げることができないでいた。なぜなら不揃いに生い茂る多くの太い木々に進行をはばまれていたからだ。

 そして森の中で上手く速度を出せないでいたシャロとは違い、魔獣は太い木もお構いなしに倒しながらシャロとの差を詰めていた。


「このままじゃ追いつかれちゃう!」


 迫る魔獣の地響きにも似た重い足音が近づくのが分かり、シャロの焦りは更に増していた。

 そしてその足音の迫り具合からこのままでは逃げ切れないと感じたシャロは、体を素早く反転させると同時に両手を魔獣の方へ突き出した。


「ファイアボール!」


 大人の頭ほどの大きさをした火球が魔獣へ向けて勢いよく飛ぶと、その火球は見事に魔獣の顔面部分へ命中した。


「やった!」


 シャロは思わず右の拳を握り込んだが、それによって魔獣の進行速度が衰えることはなかった。しかも直撃による煙が晴れたあとの魔獣には火傷はおろか、傷の一つもついていなかった。


 ――ウソッ! 第1序列魔法程度じゃ効かないってこと!? 魔獣の弱点とか戦い方とか、師匠はなんて言ってたっけ? えーっと、確か浄化魔法を使うか風魔法で瘴気しょうきを散らしてから攻撃をするんだっけ。


「って、どれもできないよーっ! もぉーーっ!!」


 今の自分には打つ手が無いことに気づいたシャロは、半泣き状態で森の外へ向かって走り続けた。しかも4ヶ月前まで戦い方すら知らなかったシャロは、体力的にはまだまだ並みの少女と大差ない、よって徐々に走る速度も落ち、いよいよ魔獣にその背を捉えられようとしていた。


「ししょぉーーっ!!」


 切羽詰せっぱつまったシャロが半べそ状態で大声を上げた次の瞬間、目も眩む激しい光が森と魔獣を包み込んだ。


「い、今のはいったい……」

「ったく、情けねえ声出しやがって」


 聞き慣れた声が後方の木の上から聞こえ、シャロはすぐに声がした方を見た。するとそこにはやれやれと言った感じの表情を浮かべたアースラが、大人の男二人分ほどはある太い枝の上に立っていた。


「し、師匠、どうしてここに!?」

「森の様子がおかしいから見に来たんだよ」

「そうでしたか……あっ! それよりも魔獣が――って、あれ? 居ない」

「そりゃあそうだろ、俺が倒したからな」

「そ、そうだったんですか、はあっ……」


 安心したシャロは途端に全身から力が抜け、その場にペタリと座り込んだ。するとその様子を見たアースラはスッと木から飛び下り、シャロへ近づいた。


「どうした、ビビッて漏らしたか?」

「な、なんてことを言うんですか! 漏らしてなんかいませんよ!」

「だったら早く立て」

「そ、そんなこと言ったって、体に力が入らないんですよ」

「ったく、しょうがねえ奴だな」


 面倒しそうにしながら、アースラは腰を抜かしたシャロを肩に担ぎ上げて歩き始めた。


「あの、助けてくれてありがとうございます」

「お前の命は契約の代価だからな、こんな所で死なれたらこれまでの苦労が全て無駄になる」

「……師匠って本当に素直じゃないですよね」

「なに言ってんだ、俺くらい素直な奴はいねえだろうが」

「へえー、そうですかぁ」

「不満があるならここに置いて行ってもいいんだぞ」

「ふ、不満なんてありませんよ、あるはずないじゃないですか」

「相変わらず調子のいい奴だな」


 こうして魔獣はアースラによって討伐され、シャロは大ピンチから救われた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ