第68話・理由ある怒り
「結界外でもこんなにすげえ冷気が漂ってると、これ以上近づくのは危険だな。てかこの結界、どうにかして消せねえかな」
三角柱の結界外に漏れ出てもなお弱まることのない強烈な冷気を前に、アースラはどうしたものかと思いつつも右手に魔力を込め始めた。
すると結界の内部で渦巻く吹雪や雹がぶつかり合う音に混じり、ギュルルッ――と別の音がアースラの耳に届いた。
――何の音だ?
「なかなかの力を持っているようだが、そちは灰色の服を纏った連中の仲間か?」
結界内の音に混じって聞こえてきた妙な音に考えを巡らせていると、その音よりもハッキリとした威厳のある女性の奇妙な言語が聞こえてきた。
――魔界語なんて久々に聞いたな。
「どうした? なぜ答えない、そちもあの連中と同じか?」
「いや、俺は灰色の服を着た連中とは関係ない」
突然のことではあったが、アースラは魔界語でその問いに答えた。
「身なりを見る限りではあの連中とは違うようなのだ」
「ああ、俺はそいつらとは何の関係もない」
「まあそれはそれとして、そちは何のためにここへ来たのだ?」
「その問いに答える前に聞きたいんだが、そっちは魔界の大悪魔フルレティさんで間違いないか?」
「我の名を知っているとは、人間のくせに感心なのだ」
「大悪魔フルレティはこの世界でも高名だからな」
「ほう、矮小なる者たちがひしめくこの世界でも我は名をはせているのか、喜ばしいとは言えぬが、悪い気はせんのだ」
「そりゃあどうも、ところでフルレティさんはどちらへ向かう予定で?」
「予定などない、我はただ、下らぬ理由で呼び出された憤りを晴らすためにこうしているだけなのだ」
「なるほど、下らん理由で呼び出されて怒ってるのは分かったが、呼び出した連中は全て始末したんだろ? だったらどうして今もそんなに憤ってるんだ?」
「どうしてだと? どうしたもこうしてもないのだっ! 人間どもは悪魔を呼び出す際はお決まりのように人や魂を差し出そうとするが、そんな物が好きなのは一部の悪魔だけで我の好みではないのだ! そんなことをされるのにも飽き飽きしているのだ! なのになぜ人間どもにはそれが分からんのだっ!」
――なるほど、悪魔にも色々と好みがあるってことか。
「フルレティさん、その怒りはよく分かるが、ここいらでその怒りを収めてくれないか?」
「なるほど、そちは我を止めるためにやって来たということか」
「まあ、そういうことかな」
「これは面白いのだ、ならばそちの力を使い、我の氷結結界を消し去ってみるといいのだ。それができたら話を聞いてやってもよいのだ」
「それはどんな方法でもいいのか?」
「かまわんのだ、いかな方法でも使うがいいのだ」
「その言葉、忘れないでくれよ、ディストラクションフレア!」
フルレティの言葉に念押ししたあと、アースラは間髪入れずに魔法を放った。




