第66話・アースラのやり方
エミリーの部屋を出てから何やら考え込んでいる様子のアースラに対し、シエラは城を出たあとで心配そうな表情を浮かべながら口を開いた。
「ねえベル君、依頼を受けたはいいけど本当に大丈夫なの?」
「さっき城でも言ったが、やってみなきゃ分らん」
「いくら師匠が強くても、伝説の悪魔を相手にするのは厳しいんじゃないですか?」
「そうかもしれんが、依頼を受けた以上はそうも言ってられんだろう」
伝説に残る悪魔の相手をするのは容易ではない、それはアースラも重々分かっているが、それでも心配げな様子を見せるシャロに対し、あっけらかんとそう答えた。
「それはそうですけど」
「まあ何をするにしても情報はいるから、手っ取り早く情報収集にでも行ってみっか」
「町の人に情報を聞いて回るってこと?」
「いや、一番手っ取り早いのは本人と会ってみることだろ」
「本人と会うって、まさか師匠、フルレティの所へ行くつもりですか!?」
「ああ、俺はこれからフルレティの様子を見て来ようと思う、二人は町でフルレティに関する情報を集めておいてくれ」
「一人で行くなんて危ないよっ! どうしても行くなら私もついて行く!」
「わ、私も一緒に行きます! 怖いけど……」
「様子を見て来るだけなら一人の方が都合がいいんだよ」
「それでも私はベル君が心配だよ」
「心配すんなって言っても無駄かもしれんが、無茶なことはしねえから安心しろ」
そう言ってアースラがシエラの頭にポンと手を乗せると、シエラの顔は一瞬で朱色に染まり、続けてしょうがないなあと言った感じの表情を浮かべた。
「……分かったよ、でも本当に無理はしないでね? 絶対だよ?」
「ああ、俺も無駄死にするつもりはねえし、まだまだシャロをしごき倒さないといけないからな」
「あの、私も師匠に死んでほしくはありませんけど、しごき倒すのは勘弁してください」
「しごかれたくなかったら強くなれ、そしたらしごかれなくなるからな」
「そんな無茶を言わないでくださいよ」
「その無茶をやらなきゃ強くはなれねえんだよ。おっし、そんじゃさっそく行って来るかな」
「くれぐれも気をつけてね、危ないと思ったらすぐに帰って来るんだよ? 分かった?」
「お前は俺の姉ちゃんか?」
「ベル君がお望みなら、私はお姉ちゃんになってあげてもいいよ?」
「アホ抜かしてんじゃねえよ、年下の姉ちゃんなんぞいらん。そんじゃまあ、そっちもしっかりやれよ」
「分かりました、師匠も気をつけてくださいね」
「おう」
こうしてアースラは二人と行動を別にし、一人フルレティのもとへ向かうことにした。




