第65話・氷結の悪魔
「それでエミリー、ストリクスの連中が召喚した悪魔は何なんだ?」
「召喚時にストリクスの者が『フルレティ』と言っていたらしいから、ほぼ間違いなく、氷結の悪魔フルレティのことだと思うわ」
「フルレティか、それがマジなら相当厄介だな」
「師匠はその悪魔を知ってるんですか?」
「俺も詳しいことは知らんが、古い文献では古代王国を氷漬けにして滅ぼした――なんて伝説も残っている悪魔だ」
「そ、そんな悪魔を相手にするなんて、いくら師匠でも無茶じゃないですか?」
フルレティに関する話を聞いたシャロは、アースラが今までに見たこともない不安そうな表情を浮かべた。
――普通に考えればシャロの言うとおりだが、やる前から出来ねえって言うのは好きじゃねえんだよな。
「それはやってみないと分からんが、何をするにしても情報は必要だ。エミリー、フルレティについて何か情報はないのか?」
「それが召喚されて以降ずっと巨大な氷結結界の中に居るから、今も有益な情報がないの」
「何も情報がないってのは痛いな」
「ええ、でもストリクスは呼び出したフルレティを制御できてないのは確かよ」
「その根拠は?」
「ストリクスは呼び出したフルレティを使ってアストリアを制圧しようとしてたみたいなんだけど、呼び出したフルレティが言うことを聞かず、その場に居たストリクスを全滅させて以降、とてもゆっくりとした速度でアストリアの地を凍らしながら移動を続けているの。そして今の私たちに出来るのは、フルレティによる犠牲者が出ないよう、アストリア領内の村や町の住人を避難させて、被害を最小限に抑えることくらいなのよ」
エミリーは自分が出来ることの限界を知っているからこそ、今の自分にはそれしかできないと歯痒さで表情を歪めた。
「とりあえずエミリーはフルレティの情報をもっと集めてくれ、俺たちは俺たちで情報を集める」
「分かったわ、よろしく頼むわね」
「ああ、それじゃあ俺たちはこれで帰るが、その前に褒美だけは頂いておこうか」
「あっ、ちゃんと覚えてたんだ」
「当たり前だろうが、報酬や褒美はきっちりと貰うのが俺のモットーなんだよ」
「相変わらずそんなところだけはしっかりしてるわね」
「それだけ世の中を生き抜くってのは簡単じゃねえってことだよ」
アースラは右手をエミリーの方へ差し出し、さっさと褒美をよこせと言わんばかりにその手をクイクイッと動かした。
「そんなことしなくても褒美は渡すから、ちょっと落ち着きなさい」
アースラの態度を見てシャロとシエラが呆れた表情を浮かべる中、アースラはエミリーから受け取った褒美に表情を明るくし、そのままアストリア城をあとにした。




