第63話・女王様とのご関係
「皆の者、面を上げよ」
兵士の一人がそう言うと全員が頭を上げ、女王へ視線を向けた。
「御三方、昨夜は我が国の兵の命を救って下さり、誠にありがとうございます。本来なら私自らが出向きお礼を述べたかったのですが、私も多忙な身、この場にお呼び立てするしかなかったことをお許しください」
「いえ、女王様からそのようなお言葉を賜り、恐悦至極にございます」
アースラがかしこまった言葉を口にすると、横に居たシャロとシエラ、そして女王が同時に驚いた表情を見せたが、女王はすぐにその表情を引き締めた。
「それでは私から直接褒美をお渡ししますので、こちらへどうぞ」
そう言うと女王は玉座の後ろにある部屋へ戻り、アースラたちは案内の兵士に続いて女王の部屋へ入った。すると女王は自らお茶の用意を進め、煌びやかに光を反射する透明なテーブルに人数分のティーカップを用意し、それにお茶を注ぎ淹れ始めた。
「私はこの者たちと話があります、他の者は下がりなさい」
「はっ、失礼いたします!」
女王の一言でお付きの兵士たちは部屋を去り、室内には女王とアースラたちだけとなった。
「さあ、お好きな席へどうぞ」
「は、はい、失礼します」
「失礼します」
シャロとシエラは女王の言葉に委縮しながらも席に座り、アースラは女王の対面の席へ座った。
「まず私から一言、あなたはアースラ・ティアーズベルで間違いありませんか?」
三人が席へ座ると女王は開口一番そう言い放ち、アースラをじっと見つめた。
「どうしたエミリー、女王の仕事が忙し過ぎて耄碌しちまったのか?」
「ちょっ?! 師匠!!」
「何言ってるのベル君!!」
唐突にいつもの砕けた喋りをしたアースラに対し、シャロとシエラは一瞬で顔を青ざめさせた。
「そのイラっと来る言い回しに太々《ふてぶて》しい態度、どうやら私の知るアースラ・ティアーズベルで間違いないみたいですね」
「認識の仕方に疑問を感じるが、エミリーらしいな」
「謁見の間であまりにもあなたらしくない言葉を聞いたから、ちょっと心配になったのよ」
「あの場でいつもどおりにしたら、周りの兵士に取り押さえられちまうだろうが」
「ふふっ、あなたもちゃんと世間の常識を学んだみたいね、褒めてあげるわ」
「相変わらずクソ生意気な奴だな、そんなんじゃ嫁の貰い手がねえぞ」
「ご心配なく、あなた以外にはこんな態度や喋り方はしてないから」
「あの、女王様と師匠はお知り合いだったんですか?」
「あ、ごめんなさい、アースラとはちょっと縁があって、しばらく行動を共にしていたことがあるのです」
「ベル君と一緒にですか?」
「ええ、アースラ、私の呼び掛けに応じてくれたこと、感謝するわ」
「呼び掛け? どういうことですか師匠?」
「俺が言ってた依頼人ってのが、そこに居るエミリーってことだよ」
「ええっ!? 女王様が師匠に依頼を?」
「それって本当なの? ベル君」
「本人が目の前に居るんだから、ウソかホントか聞いてみればいいだろが」
「本当なんですか? 女王様」
「ええ、アースラの言うとおりです。そして今日アースラを呼んだのは、ある仕事を頼みたいからです」
エミリーは椅子の横にある小さな置き棚に手を伸ばし、そこに置いてあった筒の中から紙を取り出してテーブルの上に広げた。




