第61話・悲痛な声
アストリア帝国へ入った三人はお城からほど近い場所にある宿を取り、その近くに店を構えている猫飯亭アストリア店で夕食を摂ってから宿へ戻り、のんびりと寛いでいた。
「さっきから騒がしいな」
小さな一人部屋のベッドで寝そべっていたアースラは、窓の外から聞こえてきていた喧騒が大きくなっていくのが気になって起き上がり、窓際に近づいて両開きの窓を開いた。
「怪我人を運んでるんだ! 道を開けてくれっ!」
喧騒を聞いて集まった人々に混じり、輝照石を使った街灯の光を鈍く反射するハーフプレイトメイルを纏った数十名の兵士の姿が見え、皆それぞれに怪我人を運びながら城の方へと向かっていた。
――凍傷を負った奴も居るみたいだが、いったいどうしたんだ?
アースラがその状況を静観していると、兵士の一人が足をもつれさせてその場に倒れた。
「おいっ! しっかりしろ! 誰か城から治癒士を呼んで来てくれっ!」
――あの状態でこれ以上動かすのは危ないだろうからな。
「ヒーリングライト」
宿から飛び出して来たシエラは急いで倒れ込んだ兵士へ近づき、すぐに治癒魔法を使った。
――アイツ何やってんだ!?
「シャロちゃんは怪我の度合いが軽い人の治癒をお願い!」
「分かりました!」
シエラの指示を受けたシャロはすぐに別の怪我人のもとへ向かい、初級治癒魔法を使って救護を始めた。
「アイツらは見境もなしに……」
小さな溜息を吐くと、アースラは部屋を出てシエラたちのもとへ向かった。
「すまないがコイツの治癒も頼むっ!」
「分かりました」
切迫した声を聞いたシエラは急いでその場所へ向かったが、着いた先に居る全身が重度の凍傷にかかった兵士を見た瞬間、シエラは自分の治癒魔法では対処できないと悟ってしまった。
「どうした? 早く治癒魔法を使ってくれっ!」
「私の治癒魔法じゃこの人は癒せない、ごめんなさい……」
「そんな!? 無駄でもいいから頼む! このままじゃ死んじまう!」
兵士の悲痛な願いを聞いたシエラは、無理を承知で治癒魔法を使おうと両手を突き出した。
「待て、そいつは俺に任せろ」
「ベル君!?」
アースラは治癒魔法を使おうとしたシエラの肩を掴み止め、今にも息絶えそうな兵士に向けて両手を突き出した。
「奇跡の光」
アースラが治癒魔法を使うと青く輝く光が兵士の全身を包み込み、全身の凍傷や傷を徐々に癒していった。
「凄い……あれほどの凍傷や傷が」
「他にも重傷の奴は居るのか?」
「は、はいっ、まだ居ます」
「すぐに案内してくれ」
「分かりました!」
――あんな重度の全身凍傷や傷を癒せるなんて、ベル君はどれだけの力を隠し持ってるの?
「シエラ、他の奴の治癒は任せたぞ」
「う、うん、分かった」
その後、城から駆けつけた治癒士の頑張りもあり、負傷した兵士たちの命は全員助かった。そしてこの一件に大きく貢献したアースラたちの存在は、すぐに国民の間で知れ渡ることとなった。




