第58話・謎の集団の正体
建物の暗がりへ視線を向けたまま、アースラは周囲を警戒しながら見つめていた暗がりへ向けて口を開いた。
「こんな夜更けにお祈りにでも来たのか?」
するとその問いかけに応えるように、暗がりから灰色のローブを纏った一人の男が姿を現した。
「キサマは何者だ?」
「俺のことを知りたいなら、まずはそっちから自己紹介をしたらどうだ?」
「その必要はない、キサマはここで塵も残さず灰となるのだからな!」
男は灰色のローブからフクロが描かれた左腕を出し、その掌に炎を出現させた。
「問答無用ってわけか」
「我らの邪魔をする者に死を!」
「なるほど、それが魔王崇拝者集団、ストリクスのやり方ってわけか」
「キサマ、どうして我らのことを知っている?」
「俺も仕事柄色々な情報を得るんでな、裏の情報もそれなりに把握している。その中でもストリクスの話は最近よく耳にするが、あちこちで奇妙なことをやってるそうじゃないか」
「奇妙なことではない、我々は崇高な目的のために動いているのだ」
「その崇高な目的ってやつの中には、罪もない人の魂を奪うってのも含まれてるのか?」
「……やはりキサマは生かしておくわけにはいかんな、即刻この場で死んでもらう! ファイヤーバレット!」
「マジックシールド」
無数の炎の礫がアースラ目掛けて飛んで来たが、アースラは慌てることなくそれを防ぎ、爆煙と共にその場から姿を消した。
「どこへ行った!?」
「ライトバインド」
「何っ!? うぐっ!」
視界から消えたアースラを捜して視線を泳がせていた男は、背後に回ったアースラの魔法によって瞬時に拘束され、手に持っていた小さな壺を落とした。
「これがメグルの魂を回収するための魔道具か」
「くそっ、返せ! それは魔王様へ捧げる魂を収める大切な物だ!」
「魔王に捧げる? 今更倒された魔王のためにそんなことをしてんのか?」
「魔王様はこの世に安定をもたらして下さる方だ! だから魔王様復活のため人間の清らかな魂を捧げなければならんのだ!」
「なるほど、それがストリクスの目的ってわけか」
「そうだ! 魔王様がご健在の時は魔族との争いこそあったが、人間や亜人種間での争いはほとんどなかった。だが英雄アースラが魔王様を倒したことで人間や亜人種たちの愚かな争いが始まってしまったんだ! そして俺の家族は争いを始めた愚かな人間や亜人種たちのせいで死んだんだっ……」
「だから魔王を復活させようってのか」
「そうだ! 魔王様が復活なされば愚かな人間共や亜人種たちを再び統治して下さる! 人間や亜人種たちで争うようなことはなくなるんだっ!」
悔しそうに表情を歪ませる男を前に、かつて魔王を倒したアースラはとても複雑な心境だった。
「お前の言い分は分からんでもない、だが今の時代を受け入れ、懸命に生きている人たちを犠牲にしようとするのはどうかと思うがな」
「人間は過去の悲劇から何も学ばない、平和に慣れればすぐに争いを始める、愚かな人間や亜人種たちには魔王様の絶対的な力による統治が必要なんだ! だからこそ俺たちは魔王様の復活に尽力しているんだ! そして今も多くの者たちが魔王様復活を望みストリクスに集まっている! いずれ我らの行動のより魔王様は復活し、愚かな者たちを再び統治して下さるだろう!」
「……お前には他にもまだ聞きたいことがある、だからそこで大人しくしてろ」
「こうして捕まってしまった以上、キサマにこれ以上のことを喋る気はない、うぐあっ!!」
拘束した男を残してメグルたちのもとへ行こうとした瞬間、その男は思いっきり舌を噛み切った。
「何やってんだ!? ヒーリングライト!」
アースラは舌を噛み切った男へ駆け寄って上半身を持ち上げ、すぐに治癒魔法を使った。しかしその傷は一向に癒えず、男は苦しみの声を上げながら絶命した。
――治癒魔法が効かなかった、まさかコイツも呪いを受けていたのか?
命の灯が消えた男の体をそっと地面に横たわらせたアースラは、その男の両目をそっと閉じさせ、急いでメグルたちのもとへ向かった。




