第53話・魔晶ゴーレム戦
「シャロ、くれぐれも油断するなよ」
「はいっ、行きます!」
遭遇した魔晶ゴーレムを前にシャロは気合の入った返事をして勢い良く走り始めた。
「てりゃっ!!」
しっかりと両手で持った槍をグッと後ろへ引くと、シャロは素早くゴーレムの背後へ回り込んでから槍で突いた。しかしシャロの突いた槍はキラキラと煌めくゴーレムに傷一つつけることができず、その槍先を弾き返した。
「なんて硬さなの!?」
「魔晶ゴーレムの硬さは生半可じゃないんだ、一撃で倒せるなんて思うな」
「はいっ! って、いつの間に隣へ? 他のゴーレムはどうしたんですか?」
「倒して来たに決まってんだろうが」
「えっ!? 今戦いを始めたばかりなのに?」
驚きの声を上げたシャロは他のゴーレムが立っていた場所を見た、するとそこに二体のゴーレムの姿はなく、代わりに砕け散った大小様々な魔力水晶が散らばっていた。
「ホントに倒してる」
「当たり前だろうが、お前もさっさと倒して来い」
「分かりました」
改めてアースラの力を思い知ったシャロは、槍を持つ手に再び力を入れて構えた。
――魔晶ゴーレムを倒すにはその体に傷をつけ、そこを突いて倒すしかない。でも師匠は『一撃で倒せるなんて思うな』って言った、ということはそれなりの手数が必要になるってことだろうけど、あの硬さじゃ簡単に傷はつけられない。
「だったらっ!」
アースラの言葉を聞いたシャロは考えを巡らせて答えを出し、初撃で突いた部分を集中的に狙って何度も攻撃を繰り出した。すると連続攻撃を受けていた部分に小さな傷が入り、それを見たシャロはその傷へ向けて渾身の力で槍を突いた。
「これでどうだーーっ!!」
小さな突き傷にシャロの突き出した槍先が刺さると、そこから全身へひび割れが走りゴーレムは一気に崩れ落ちた。
「師匠、どうでしたか?」
言葉の意図を読み解いてゴーレムを倒したシャロに対し、アースラは小さく笑みを浮かべた。
「まあまあってところだな」
「今のでまあまあなんですか? 何かいけない所がありましたか?」
「傷をつけるために同じ個所を攻撃するのは正解だが、その前段階で減点だ」
「前段階で減点? どういうことですか?」
「お前、ゴーレムを倒すのに何回攻撃をしたか分かるか?」
「えっと……二十回くらいですかね?」
「二十二回だ、まあそれでもなかなかのもんだが、多くても五回でケリをつけてほしかったな」
「五回ですか!? そんなの無理ですよ」
「無理ってことはねえよ、俺は二回で始末したしな」
「ど、どうやって二回で倒せるんですか!? あんなに硬いのに」
「そんなの魔法を使えば解決だろうが」
「えっ!? だって師匠、魔法攻撃はするなって言ったじゃないですか」
「誰が魔法攻撃で倒したなんて言った、俺が使ったのは強化魔法だよ」
「強化魔法? ……あっ!」
「気づいたみたいだな」
「魔法で武器を強化して戦ったんですね」
「そういうこった、直接の魔法攻撃は使えないが、魔法で武器を強化する分には問題ない」
「それならそうと言ってくださいよ」
「戦いってのは常に思考を巡らせて戦うもんだ、お前も魔法士としてやっていくならそれを忘れないようにしておけ。さあ、先を急ぐぞ」
「はいっ」
初の魔晶ゴーレム戦を終えたシャロに簡単な駄目出しをしたあと、二人は再び頂上を目指して進み始めた。




