第4話・師弟の日常
どこまでも広がる荒野の一角、そこではアースラとシャーロットが距離を取って向き合い魔法を使った訓練を繰り広げていた。
「どうしたシャロ、もう終わりか? そんなんじゃ誰も救えねえぞ」
「くっ、まだこれからですっ!!」
シャロは挑発に乗って魔法を放とうとしたが、凄まじい速さで距離を詰めて来たアースラの足払いを受け、そのまま左手を掴まれながら地面に組み伏せられた。
「うぐっ」
「相変わらず甘いな」
「むぐぅ、今度は上手くいくと思ったのに」
「なにが上手くいくと思っただ、安い挑発に乗って堂々と魔法を使おうとしやがったくせに。あんな見え透いたやり方じゃ魔法を撃っても余裕で避けられるのがオチだ」
「ううっ」
呆れた様子でそう言うと、アースラは組み伏せた時に掴んでいた左手を離した。
「前にも言ったが、戦いの優劣は魔力の差だけじゃ決まらない、会話の駆け引き、体術や武器の使い方、身のこなし、天候、戦っている場所、魔法の使い方、様々な要素が戦況を左右する。それと相手が魔法士だからって、接近戦をしないなんて思い込みは捨てろ」
「分かってますよ、でも師匠みたいに接近戦もこなすマジックエンチャンターなんてそうは居ませんよ」
「そうかもしれんが、用心はしておけってこった。まあこれからも俺の弟子としてやっていくつもりなら、それくらいのことは常に意識しておけってことだな」
「分かってますよぉ……」
いじけたようにそう言うと、シャロは両膝を抱えてその場に座り込んだ。
「だったらさっさと俺に魔法の一撃を当ててみろ、もうこの課題を始めてから8日経ってんだ、いい加減飽きてきたんだよ」
「もうっ、どうして師匠はそう意地悪なんですか」
「こうして修行につき合ってる俺に意地悪とかよく言えたもんだな、別に俺は修行につき合わなくたっていいんだぞ」
「う、嘘ですよ嘘っ、師匠はとーっても優しい人です」
「ったく、調子のいい奴だな。まあいい、とりあえず腹が減ってきたから何か捕まえて来てもらおうか。獲物はそうだな……近くにある狩猟の森でスクローファを一頭捕まえて来い、なるべく大きい奴な」
「私だけでですか?」
「当たり前だろうが、これが初めての狩りってわけじゃねえんだし、頑張って捕まえて来い」
「はあっ、分かりました、本当に師匠は人使いが荒いんだから……」
渋々と言った感じで立ち上がると、シャロは服に付いた土埃を払って荷物置き場へ向かい、そこから短剣を取り出した。
「シャロ」
「はい、なんですか?」
「分かってるとは思うが、森の中は視界も悪くなる、周囲には十分気をつけろよ」
「はい、気をつけます」
こうして準備を整えたシャロは狩猟の森へ向けてスタスタと歩き始めた。そしてシャロの姿が狩猟の森へ消えて行くのを見送ったアースラは、青く広がる空を見上げながらふうっと息を吐いた。
「アイツを助けてからもう4ヶ月か、早いもんだな」
遠い昔を思い出すように呟いたアースラは大地に寝転んで両目を閉じた。
そしてシャロが狩りに向かってから20分ほどが経った頃、アースラは突然両目を開けて素早く立ち上がり、狩猟の森へと視線を向けた。
「動物の群れが森から逃げてる……まさか!」
森から多くの鳥たちが一斉に飛び立ち陸上動物たちが荒野へ走り出て来る様子を見たアースラは、急いで狩猟の森へ向かって走り始めた。