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第47話・助けたいという思い

 翌日の早朝、スラム街にある教会から組合に来ていた少女が膨れ上がった荷物入れを背負って出て来ると、町の出入口方面へと向かい始めた。


「組合とは違う方へ向かってるみたいだが、こんな朝早くからどこへ行くつもりだ?」

「えっ!? あ、あなたは昨日の……どうしてこんな所に居るんですか?」

「気まぐれでいつもとは違う散歩コースを通っただけだ。それよりも、今日は組合に行かないのか?」

「……もう組合には行きません、誰に頼んでも無駄だって分かりましたから」

「だから自分で永劫えいごう氷花ひょうかを取りに行こうってのか? 悪いことは言わんから止めておけ、戦えない奴が行っても無駄に命を落とすだけだ」

「そんなの言われなくても分かってます! でも冒険者は誰も依頼を受けてくれなかった! だったらもう私が行くしかないじゃないですかっ!」

「それは報酬額が十分じゃないから仕方がないことだ」

「冒険者なんて大っ嫌いです! 誰に頼んでもお金お金お金、どれだけお願いをしても私たちみたいな貧乏人は何もしてもらえない、一生懸命に働いて貯めたお金でも足りないって言われる、だったらもう冒険者には頼りません!」


 激しい口調でそう言うと、少女は再び町の出入口へ向かって歩き始めた。


「嬢ちゃんも俺の弟子と同じ思い違いをしてるみたいだな」


 アースラが少女の背中に向かってそう言うと、その少女はその場で足を止め、苦々しい表情をしながらアースラの方を見た。


「思い違いって何ですか?」

「冒険者だろうと一般民だろうと命の大切さは変わらん、だが命の価値は人それぞれに違う、嬢ちゃんにとってお姉さんの命は相当の価値だろうが、多くの冒険者たちにとっては違う。冒険者たちは自分や仲間たちの命の方が大事だ、だから命を賭けるに見合わない金額の依頼を受けないのは当然なんだよ」

「だったら弱い人間はどうなっても仕方がないって言うんですか!? どんな理不尽や不幸も受け入れろって言うんですか!!」


 少女は涙を浮かべながらアースラを睨みつけ、感情のままにその気持ちを言葉にしてぶつけた。


「現実を言えばその通りだ、だが今の嬢ちゃんには別の選択肢がある」

「……別の選択肢って何ですか」

「俺に仕事の依頼をするって選択肢だ」

「はっ? 昨日頼んだ時は受けないって言ってたじゃないですか」

「あれは冒険者としてなら仕事は受けられないって意味だ」

「どういうことですか?」

「俺は冒険者とは別に便利屋もやっている、だからしがらみのある組合の冒険者としてではなく、何にも縛られない自由な便利屋としてなら仕事を受けることができるって意味だ」

「ほ、本当ですか!?」


 アースラの言葉に少女は表情を明るくし、その瞳に希望を宿らせた。


「ああ、だが報酬金はきっちりと支払ってもらうぞ、必要経費を含めて百五十万グランだ」

「そ、そんな大金は無いって言ったじゃないですか……」

「お前に何に変えても救いたいという強い気持ちがあるなら、それだけのモノを背負ってもいいという覚悟を持って頼むんだな、俺だって命を懸けるんだしな。それと支払いに関しては冒険者組合みたいに一回で全て払えとは言わんから、少しづつでもちゃんと払ってもらえればいい。ただし、一回に支払ってもらう最低金額は決めさせてもらうがな」

「……分かりました、それでお姉ちゃんが助かるなら頑張ります」

「その言葉は俺と契約すると受け取っていいんだな?」

「はい、お願いします、だからお姉ちゃんを助けてください」

「分かった、俺はアースラ・ティアーズベルだ、よろしく」

「私はカリンです、よろしくお願いします、アースラさん」

「ああ、だが正式に依頼を受ける前に冒険者組合に出した依頼を取り下げて来てくれないか、じゃないと俺が組合のいかついオッサンにどやされちまう」

「分かりました」

「それじゃあ依頼を取り下げたら組合の近くにある猫飯亭に来てくれ、そこで詳しい話を聞くことにする」

「はいっ!」


 こうしてアースラは依頼を引き受けることにし、カリンと別れて宿へ戻り始めた。

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