第46話・孤児院の子供たち
少女が冒険者組合の建物を出て行ったあと、シャロは不満げな表情を浮かべながらアースラを見て口を開いた。
「師匠、どうしてあんな言い方をしたんですか? 可哀相じゃないですか」
「俺は無理なものは無理だと言っただけだ」
「それなら私たちが受けてあげればよかったじゃないですか」
「シャロ、あの子の依頼は組合が正式に受理したものだ、だから俺たちが同情心で安く請け負えば他の冒険者たちの迷惑になる」
「どうしてですか?」
「冒険者は組合から受けた仕事を命懸けでこなしている、だからこそ冒険者は高額な報酬も得られる仕組みなんだ。だから報酬ってのは冒険者が命を懸けてもいいと思える額が支払われるべきで、冒険者も自分の命を懸けてもいいと思える額が提示された依頼を受けるべきなんだ。だからこそ、俺たちが安請け合いをするわけにはいかないんだよ」
アースラの言い分は分かるものの、シャロは納得してないと言った表情を浮かべていた。するとそんなシャロを見たアースラはさっき道具袋に仕舞い込んだ報酬金の入った麻袋を取り出し、それをシエラに差し出した。
「シエラ、先にシャロと猫飯亭に行って晩飯を食っててくれ」
「それはいいけど、ベル君はどうするの?」
「俺はちょっと野暮用があっから、それを済ませたら行く、もしも食べ終わるまでに戻らなかったらそれで支払いをしといてくれ」
「うん、分かった。シャロちゃん、行こう」
「はい……」
アースラの言葉を聞いて頷いてくれたシエラに促され、シャロは渋々と言った感じで組合の外へ出て行った。
「相変わらずの口下手だな、お前は」
「うるせえよ」
ガリアの言葉に小さな舌打ちをして答えると、アースラも組合を出て行った。
× × × ×
円形城塞都市リーヤにも貧富の差はかなりあり、一部にはスラム街のような場所もある。シャロとシエラを猫飯亭へ向かわせたアースラは組合を飛び出して行った少女のあとを追い、その末にボロボロになった教会へ入って行く少女の姿を見届けた。
「リーヤにもいくつか孤児院があるのは知ってたが、こんな場所にもあったとはな」
アースラはボロボロになった教会へ近づいてその外周を歩き、一つの小さな窓に近づいて中を覗き見た。するとそこにはボロボロに傷んだベッドで寝かされている大人の女性と、その女性を心配そうに見つめる数人の子供たちの姿があった。
「ゴホッゴホッ!」
「お姉ちゃん大丈夫!?」
「う、うん、大丈夫だから心配しないで、それよりも急いで夕飯の支度をしないと」
「そんなの私たちがやるから、お姉ちゃんは寝てて」
「でも……」
「いいから寝ててっ!」
組合に来ていた少女はそう言うと、体を起こしていた女性の上半身を両手で支えて寝かせ、他の子供たちを伴って部屋を出て行った。
「ゴホゴホッ! ごめんね、みんな……」
子供たちが居なくなった部屋の中で女性はそう呟いて涙を零した。
――頻繁に出る咳に精気のない土気色の肌、確かに病気みたいだが、あの異様に曇った目はちょっと引っかかるな。
女性の様子を見たアースラはそっとその場を離れ、猫飯亭へ向かい始めた。




