第45話・非常な現実
旧知の間柄であるアースラとシエラが偶然にも再会し、一緒に行動をすることになってから5日が経った。
「ほれっ、今回の報酬金の三十万グランだ」
夕刻、シャロとシエラを連れて冒険者組合へやって来たアースラは、ガリアから報酬金が入った麻袋を受け取って中身を確認し、それを腰に下げている道具袋へ仕舞い込んだ。
「確かに受け取った」
「最近組合の仕事をよく受けてるが、便利屋は廃業したのか?」
「んなわけねえだろ、依頼人が少ないだけだ」
「だったら組合と連携して依頼人を増やせばいいじゃねえか」
「それいい考えですね」
「あのなあシャロ、組合と組んだら仲介料もいるし、色々な意味で制限ができてこっちの自由度が下がる、それじゃあ便利屋をやってる意味がねえだろ」
「でも便利屋の仕事が無いから組合の仕事を受けてるわけじゃないですか、だったらちょっとの不自由くらい仕方ないんじゃないですか?」
「どう言われようと組合と組むつもりはねえよ」
「相変わらず頑固ですね」
「まあまあシャロちゃん、ベル君にはベル君なりの考えがあるってことだろうから」
「嬢ちゃんも大変だね、こんな奴の弟子になって」
「分かってもらえますか?」
「よく分かるよ、コイツはホントに可愛げがねえからな」
「ガリアに可愛げがあるなんて思われたくねえよ、気持ちわりい」
「お願いです! どうか依頼を受けてくださいっ!」
相変わらずな受け答えをアースラがすると、突然組合の中に少女の甲高い声が響いた。
「駄目だって言ってるだろ、誰がそんなはした金でその仕事を受けるってんだ」
「あのお嬢ちゃん今日も来たのか」
「今日もってことは、昨日も来てたんですか?」
「5日前から毎日来て依頼を受けてくれる冒険者を捜してるんだよ」
「それなら組合に依頼して、依頼を受けてくれる冒険者を待てばいいんじゃないですか?」
「あのお嬢ちゃんは2週間前に組合に依頼を出してるんだよ、だがあのお嬢ちゃんの提示した報酬額じゃ、誰も依頼を受けてはくれんだろうな」
「ほう、ちなみに依頼内容と報酬額は?」
「依頼は永久氷山にある永劫の氷花の採取、報酬額は二万六千グランだ」
「なるほど、確かにその依頼内容でその報酬額じゃあ誰も引き受けないだろうな」
「ああ、可哀相だがこればっかりは仕方ない」
「ベル君、その永劫の氷花って採取が難しいの?」
「永劫の氷花はあらゆる病気に効果があるって高価な薬草だが、その採取難易度はかなり高い。永劫の氷花の希少性や採取の難しさ、永久氷山のモンスターの強さを考えると、最低でも百二十万グランは必要だろうな」
アースラが説明をしている間も少女は手当たり次第に冒険者へ依頼を嘆願していたが、低すぎる報酬額のせいで一人としてその依頼を受けてくれる者は居なかった。
そしていよいよ頼む相手が居なくなった少女は、アースラたちのもとへとやって来た。
「お願いです! どうか私の依頼を受けてください!」
「どうして永劫の氷花が必要なんだ?」
「孤児院に居るお姉ちゃんが病気にかかってしまったんです、それでお医者さんに診せたら、お姉ちゃんの病気を治すには永劫の氷花そのものを薬にする必要があるって言われたんです。だからどうしても取って来て欲しいんです!」
少女は瞳に浮かんだ涙を零しながらアースラたちに向かって必死にそう訴えた。
「そこのオッサンから報酬額は二万六千グランと聞いた、それじゃあここに居る奴らは誰もその仕事を受けないし、俺も冒険者としてならその依頼を受けるつもりはない。残念だが諦めろ」
「し、師匠、何もそんな言い方をしなくても」
「こういうことはハッキリと言ってやるべきだ」
「ううっ……もういいですっ!!」
アースラの言葉を聞いた少女は大粒の涙を零しながらそう言うと、走って組合の建物を出て行った。




