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第44話・策士策に溺れる

 シエラのおごりで猫飯亭へ来ていたアースラは、シエラの飲みっぷりを見ながらちびちびと酒を飲んでいた。


「すみませーん! アプールカクテルを一杯お願いしまーす!」

「かしこまりましたー」

「そんなに飲んで大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ、それよりもベル君、せっかくの奢りなんだからもっと飲んでよ、さっきから全然飲んでないじゃない」

「ちゃんと飲んでるじゃねぇか」

「そんなちびちび飲むのは飲んでる内に入らないよ、飲むならもっと景気良く飲んでくれないと奢り甲斐がないじゃない」

「お前が飲んでる姿を見てるだけで酔いそうなんだよ。てかお前、そんなにハイペースで飲んで本当に大丈夫なのか?」


 アースラの心配に対し、シエラはテーブル越しに顔を近づけて口を開いた。


「ヴァンパイアってすっごく毒に強い体質なんだけど、お酒にも強いみたいで、ほろ酔いくらいはするけどすぐに治るし、泥酔なんてしたことは一度もないんだよね」

「そりゃすげえな」


 アースラは二杯目の酒を飲んでいる最中だったが、シエラは既に七杯目を飲み終わろうとしていた。しかもかなり度数の高い酒を。


 ――これなら酔い潰れて俺が運ぶなんてことにはならんだろうが、こんなに飲んでるのを見てるとそれだけで俺も飲んだ気になるな。これはあれだな、目の前で沢山食べてる奴を見てると、なぜか食欲が失せてくるあの感じと似てるな。


 上機嫌な様子でお酒を飲むシエラを見ながらそんなことを思っていると、近くの席で飲んでいる男女のカップルの女性が、隣に居る男の肩に頭を預けるようにして寄り掛かった。


「どうしたんだ?」

「ちょっと酔っちゃったみたい、ごめんね」

「いいよ、俺の肩ならいくらでも貸してやるから」

「うん、ありがとう」


 寄り掛かる女性の肩にそっと手を回すと、女性は嬉しそうな笑顔を浮かべた。するとその様子を見ていたシエラは、近くを通りかかった女性店員の手を掴んで自分の方へ引き寄せた。


「この店で一番強いお酒をお願いします」

「は、はい、分かりました」


 引き寄せた店員の耳元でコソコソと注文をすると、店員はそそくさと注文の品を取りに向かった。


「何してんだ?」

「ううん、なんでもないよ、気にしないで」


 ニコニコとした満面の笑顔でそう答えると、注文を受けた店員がお酒が入ったグラスを持って現れた。


「お待たせしました、こちらスピタスです」

「ありがとうございます」


 店員がテーブルにグラスを置くと、シエラはさっそくそのグラスに手を伸ばして酒を飲み始めた。


「確かスピタスって洒落にならんくらい強い酒じゃなかったか?」

「そうらしいね」


 シエラは狙い澄ましていたようにアースラの隣へ椅子を持って移動し、ピタリと体をつけてその肩に頭を預けた。


「何やってんだ?」

「ちょっと酔っちゃったみたい」

「さっきはほろ酔いはあってもすぐに治ると言ってなかったか?」

「う、うん、でもさすがにこれは効いちゃったみたい」

「嘘ついてんじゃねえだろうな」

「私がベル君に嘘なんてつくはずないじゃない」

「そうか、それならとっとと帰ろうぜ、それ以上酔いが回らない内にな」


 そう言うとアースラは席から立ち上がり、残った酒をグイッと飲み干してからさっさと店を出てしまった。


「もうっ! ベル君のバカッ!!」


 残されたシエラは仏頂面を浮かべると出入口に向かって大きな声を上げ、急いで支払いを済ませてからアースラを追いかけて行った。

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