第42話・お互いの秘密
シエラに質問をされたアースラは戸惑いこそあったものの、黙っていても仕方がないと思い口を開いた。
「あの力は当時の俺でも制御出来なかったから、完全な状態でみんなに定着させることができなかった。しかもその代償で全盛期の七割近くの力を失うことになったしな」
「全盛期の七割!? そんなに力を失ったの?」
「ああ、だがあくまでも七割ってのは俺の体感と、力を失ってから色々と試してみた結果でそう言ってるだけだが、まあ大体そんなところだろうさ」
「そこまで力を失ってるベル君とほぼ互角なんて、ちょっとショックだなあ」
「いや、確かに大きく力を失いはしたが、今は全盛期の約六割くらいまでは力を取り戻してるぞ」
「そうなの?」
「ああ、力を失ってからは目的のために力を取り戻そうと、結構無茶なこともしたからな」
「今日の勝負だってベル君は本気じゃなかったのに……でも全盛期のベル君はそのとんでもない強さがあったからこそ、魔王を倒せたんだもんね」
「……どうして俺が魔王を倒したと思うんだ?」
「だって魔王を倒した英雄の名前はアースラじゃない」
「確かにそうだが、名前が同じってだけで俺のこととは限らんだろ」
「魔王を倒した英雄アースラは、通常一つしか宿ることがないって言われてる紋章を両手に一つずつ宿してたって伝わってる。だから間違いなく、ベル君が魔王を倒した英雄アースラだよ」
「おいおい、俺は紋章持ちなんかじゃないぞ」
「残念だけどその嘘は私には通じないんだよね、ヴァンパイアは相手の生命力や気力、魔力の流れをハッキリと見ることができる特殊な目をしてるから、そのおかげで相手が紋章持ちかどうかもハッキリと分かっちゃうんだよね」
「その話がマジだとしたら、ヴァンパイアって種族は質が悪いな」
「それは誉め言葉として受け取っておくよ。まあベル君のことだから、面倒事に遭わないために魔王を倒したことや紋章持ちなことを隠してるんでしょ?」
「まあな、だからシャロにも魔王を倒したことや紋章を宿していることを話してないし、これからも必要がなければ話すつもりはない、それだけは覚えておいてくれ」
「うん、分かった、ちゃんと覚えておくね」
「助かる」
アースラがそう言うと、シエラはとてもにこやかな笑顔を浮かべた。
「それにしても力の大半を失ったとはいえ、シエラが今の俺とそれなりに戦えるなんて思ってもいなかったな」
「人間に比べたらヴァンパイアの身体能力は高い方だろうけど、元々ヴァンパイアは戦闘向きの種族じゃないから、それなりに戦えるようになるまでは苦労したよ」
「ほー、それじゃあシエラが修業を頑張った成果ってことだな」
「強くなるために頑張ったのは事実だけど、私もベル君と同じ紋章持ちだから、そのおかげもあるのかな」
「お前、何とんでもねえことをサラッと話してんだ」
「紋章持ちであることを簡単に話すのは良くないと思うけど、ベル君の秘密も知っちゃったし、これでお相子ってことでいいんじゃない?」
「お相子って、お前なあ」
「それじゃあこう考えて、私が紋章持ちだってことをベル君が知ってたら、戦いについてはそれなりに信用してもらえると思ったから話したって」
「理屈は分かるが、お前が本当に紋章持ちかどうかなんて俺には分からん。お前みたいに特殊な目があるわけじゃないしな」
「なかなか疑り深いねベル君は」
「世の中を渡って行くには疑り深いくらいで丁度いいんだよ」
「しょうがないなあ、見せるつもりはなかったけど、信用してもらうためには仕方ないのかな」
そう言うとシエラは素早くアースラに背を向け、顔を赤らめながら服の胸元部分を指で摘まんだ。




