第41話・夜のお誘い
シエラの実力を試した日の夜、アースラはシャロが寝ただろう頃合いを見計らって隣の部屋を訪れ、まだ起きていたシエラを外へ誘い出した。
「夜中に女性を外へ誘い出すなんて、危ない目に遭っちゃったらどうするの?」
「お前ほどの実力があれば大抵のことは危険にもならんだろ」
「実力を認めてくれるのは嬉しいけど、少しくらい心配する素振りを見せてくれてもいいんじゃないかな」
「一人で夜歩きならともかく、俺が居るんだから何の心配もねえよ」
「それって何かあったらベル君が守ってくれるってこと?」
「街の中で俺の助けが必要になることは無いとは思うが、そんなことがあればな」
「そっか」
いつもの調子でそう答えると、シエラはとても嬉しそうな笑顔を浮かべた。
そしてしばらく他愛のない話をしながら夜の表通りを通り抜け、人の姿が見えない裏通りへ入って行くと、アースラは途端に足を止めてシエラの方へ振り返った。
「シエラ、お前今日の勝負のあとで、俺が本来の力を出せてたら勝負にもならなかった――みたいなことを言ってたが、あれはどういう意味だ?」
「どういう意味も何も、言葉そのままの意味で受け取ってもらっていいけど」
「いや、俺が聞きたいのはそういうことじゃなくてだな、どうして俺が本来の力を出せないと思ったんだってことだ」
「ああ、私もハッキリとした確証があって言ったわけじゃないんだけど、そんなことを聞くってことは、私の考えは間違ってなかったってことかな?」
その言葉にアースラは何も答えなかったが、その沈黙がシエラの問い掛けに答えを出してしまっていた。
「異論反論がないってことは、私の考えは正解みたいだね」
「どうしてそう思った?」
「今日ベル君と魔法の押し合いをしてる時にね、なんとなく感じたの、何かが抜けてるのかなって」
「何かが抜けてる?」
「うん、本当はもっと力が出せるはずなのに、その根源みたいなものが無くなってるせいで自分の思っている力――ううん、本来出せるはずの力を出せないでいるのかなって思ったの。そして勝負が終わったあとで昨日の夜に聞いた話を思い出して、それでなんとなく思ったの、今のベル君は元々あった力の一部を失ってるんじゃないかって」
「ったく、色々と予想外な成長をしたとは思ってたが、まさかそんなことにまで気づくとはな」
「昔ね、私の師匠に聞いたことがあるの『自身の力量を大きく超える力を無理に使おうとすれば、その代償として力を失うことになる』って。だからベル君が力を失ったのって、あの時に話してくれた力を使ったからなんでしょ?」
シエラは少し言い辛そうにしつつも、アースラの表情を見ながらそう尋ねた。




