第39話・勝敗の判定
勝負終了後、シャロはお互いに近づいたアースラとシエラのもとへと走り寄った。
「シエラさん大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」
「うん、大丈夫だよ」
「良かったです……それにしても凄いですね、師匠と互角に戦える人なんて初めて見ましたよ」
「ありがとう、でもねシャロちゃん、もしもベル君が本来の力を出せてたら、きっと私は相手にもならなかったよ」
「本来の力ですか?」
「うん」
シエラが微笑みながらアースラへ視線を向けると、それに釣られるようにしてシャロも視線を向けた。
――まさかシエラの奴、俺の秘密に気づいてるのか?
「ところでシャロ、弟子が一番に師匠の心配をしないってのはどういうことだ?」
「えっ? だって師匠にはそんな心配必要ないでしょ」
「こういう時は嘘でも心配しとくもんだ、俺の弟子なら覚えとけ」
「あははっ、それだけシャロちゃんがベル君の強さを信じてるってことじゃない」
「ものは言いようだな」
「それよりもベル君、さっきの勝負は私の勝ちだから、ちゃんと約束は守ってよね」
「何言ってんだ? 俺は一撃も受けてないだろうが」
「ベル君こそ何言ってるの、私は一撃どころか数えきれないほど攻撃を当ててるじゃない」
「はあっ!? 俺がどこで攻撃を受けたってんだよ」
アースラの問いにシエラはその場でしゃがみ込み、地面に落ちている小さな石ころを一つ拾い上げた。
「ベル君は私の魔法攻撃で運ばれた石ころを体に浴びたでしょ? だから私の勝ちだよ」
「おいおい、馬鹿なこと言ってんじゃねえよ、そんなの屁理屈だろうが」
「屁理屈だなんて酷いなあ、だいたいベル君が『何でもいいから俺の体に攻撃を当てて見せろ』って言ったんだから、当然私の勝ちでしょ」
シエラは明るい声音でそう言うと、アースラに向かってにこやかな笑顔を見せた。
「事情はよく分かりませんけど、そういう条件を出して勝負をしたなら確かに師匠の負けですね」
「おい、シエラの口車に乗ってんじゃねえよ」
「だって師匠がシエラさんの立場なら、絶対に同じようなことを言いますよね?」
「ぐっ」
確かにそうするだろうなと思ったアースラはシャロの言葉に反論できなかった。
「勝負は私の勝ちだよね? ベル君」
「いやそれは……」
「師匠は潔く負けを認めるべきだと思います」
「そうだよねー、師匠が自分で出した条件の結果を認めないなんて、シャロちゃんは弟子として恥ずかしいよね?」
「そうですよ師匠、シエラさんの言う通りです、負けを負けと認めないなんて、弟子として恥ずかしいですよ」
「あーもう、わーったよ、負けを認めりゃいいんだろ」
「やった!」
「良かったですね、シエラさん」
「うん、シャロちゃんのおかげだよ」
こうしてアースラとシエラの勝負は一応の決着を迎え、アースラはシエラの要求を飲まざるを得なくなってしまった。




