第38話・近しき強者の戦い
アースラとシエラが再会した翌日の昼前、朝の修行を終えたアースラはシエラとシャロを連れ、リーヤからかなり離れた場所にあるサルバス荒野へ来ていた。
「よし、この辺りまで来れば問題ないか」
「師匠、こんな所まで来て何をするんですか?」
「これから俺とシエラが勝負すっから、その様子をここで見とけ。そして俺たちが勝負を始めたらこの砂時計を逆さまにして、砂が落ち切ったら止めろ」
アースラは道具袋から小さな砂時計を取り出してそう言うと、それをシャロに手渡した。
「なんで師匠とシエラさんが勝負するんですか?」
「理由はあとで話す、だから今は俺たちの戦いをしっかりと見とけ、それも大事な修行の一つだ」
「……分かりました」
真剣なアースラの表情を見たシャロは何か特別な事情があるのだろうことを察し、素直に頷いた。そしてシャロが頷いたのを見たアースラは、シエラを連れてシャロから距離を取った。
「勝負の内容は簡単だ、戦いを始めてから5分以内に何でもいいから俺の体に攻撃を当てて見せろ、それができたら俺に協力するのを認めてやる」
「分かった、何でもいいから体に攻撃を当てればいいんだね?」
「そうだ」
単純明快な内容に対し、シエラは素直に頭を縦に振った。
「よし、それじゃあ始めるか。今からこのコインを上に弾くから、それが地面に落ちたら勝負開始だ」
「分かった」
返答を聞いたアースラは右手に持っていた歪なグランコインを親指に乗せ、それを上に向かって弾き飛ばした。
「ライトニングシュート」
空に向かって弾き飛ばされたコインがクルクルと回りながら地面へ落ちた瞬間、シエラはアースラに向かって魔法を放ったが、魔法は当たることなくギリギリのところで回避された。
――魔法の発動速度、魔力操作の正確さ、ここまで練度の高い魔法士はそうは居ないだろうな。
「ウインドブラスト」
シエラの初撃で驚かされたアースラだったが、すぐに驚きを静めて反撃に打って出た。しかしアースラが放った風魔法を見たシエラは、その魔法を避けようともせず両手を前に突き出した。
「ウインドブラスト!」
――シエラの奴、俺と力比べするつもりか? 上等じゃねえか!
二人の放った魔法がぶつかり合い、激しい気流が周囲に巻き起こる中、アースラは不敵な笑みを浮かべながら魔力を少しずつ強め始めた。
「くっ、まだまだだよっ!!」
徐々にアースラの魔法に押され始めていたが、シエラもすぐに魔力を強めて対抗し、押されていた状況を元に戻した。
――あの夜の手際を考えればそれなりの実力はあると思っていたが、これは思った以上だな。
互いが放った魔法による風の衝撃がぶつかり合い、周囲の空気を次々と飲み込んで空へと昇って行く。
――想像してたよりも遥かに強い、このまま押し合えば確実に私が負ける。だったらっ!
「ギガウインド!!」
同じ魔法での押し合いを不利と見たシエラは第3序列魔法のウインドブラストから、第7序列魔法のギガウインドへと切り替えた。するとシエラの放っていたウインドブラストとギガウインドが二重の衝撃となってアースラに襲い掛かり、均衡を保っていた気流が舞い上げた砂や石ころをアースラの方へと運んだ。
「ちっ、マジックシールド」
迫り来る風の二重衝撃を魔力の盾で防いだアースラだったが、その衝撃によってその場を動けなかったせいで降り注いだ砂や石ころを体いっぱいに浴びる羽目になってしまった。
「そこまでです!」
凄まじい風の衝撃がアースラの横を突き抜けたあと、お互いが次の一撃を狙って魔法を放とうとした瞬間、シャロの緊迫した甲高い声がサルバス荒野に響いた。




