第35話・二つ名の由来
アースラとシエラは急いで猫飯亭へ向かい、そこで席に座って待っていたシャロと合流した。
「あっ、師匠、シエラさん、待ってましたよ」
「まだ何も注文してないのか?」
「一人で食事なんて寂しいじゃないですか、それに私はシエラさんと一緒に食事をしたかったんですよ」
「そっか、待たせてごめんね」
「いえ、まさか師匠とシエラさんがお知り合いだったとは思いませんでしたし、積もる話もあったでしょうから気にしないでください」
「ありがとね」
「さてと、とりあえずさっさと注文して飯を食おうぜ」
「そうですね、私もお腹ペコペコです」
「シエラ、約束どおり好きな物を食べていいぞ」
「本当にいいの?」
「ああ」
「それじゃあ遠慮なくご馳走になるね」
シエラは嬉しそうにメニュー表を手に持つと、さっそくその内容を見始めた。すると二人もメニュー表を手にして料理選びを始め、しばらくしてからシャロが元気に店員を呼んだ。
「お待たせしました! ご注文は何でしょうか?」
「俺はスクローファの煮込みスープにパンとサラダのセットを頼む。シエラはどれにするんだ?」
「えーっとね、私はクックルのから揚げにグラスハーブを使った彩サラダ、ペリュンコのソーセージ二十本と、スクローファの厚切りステーキ八枚、特大ギュロッコハンバーグ五つと、旬の食材で作った炊き込みご飯をメチャ盛でお願いします!」
信じられないくらいの注文量にアースラもシャロも店員さえも、唖然とした表情を浮かべていた。
「お、おい、そんなに注文して大丈夫か?」
「お腹壊したりしませんか?」
「私ね、生まれてから一度もお腹を壊したことがないんだよね、だから大丈夫だよ」
「そ、そうですか」
「まあお前がいいならいいけどさ、シャロ、早くお前も頼め」
「あ、えっとそれじゃあ、私はスクローファ饅二つと野菜スープのセットでお願いします」
「シャロちゃんが注文したのも美味しそうだね、私も追加でスクローファ饅を五つお願いします」
「「えっ!?」」
「は、はい、かしこまりました、しばらくお待ちくださいませ」
「どんな料理が来るか楽しみだなあ」
店員も驚愕するほどの注文をしたシエラはまだ見ぬ料理を楽しみにしながらにこやかな笑顔を見せ、アースラとシャロは引き攣った表情を浮かべていた。
「そういえば師匠、前に話したブルーアイズ・フェアリーさんの話は覚えてますか?」
「ああ」
「実はシエラさんのことだったんですよ」
「ほー、そうなのか?」
「うん、いつの間にかそう呼ばれてたんだけど、私としてはそう呼ばれるのは恥ずかしいんだよね」
「だよなあ、二つ名をつけるのは勝手だが、もうちょっとマシなのにしろって思うよな」
「うんうん、でもそう思うってことはベル君にも二つ名があるってことだよね? どんな二つ名なの?」
アースラはしまったと言った感じの気まずそうな表情を浮かべ、スッと視線を逸らした。
「俺の二つ名なんてどうでもいいだろ」
「そんなのズルいよ、私のだって知ってるんだから」
「それはシャロが勝手に喋っただけで、俺から聞いて教えてもらったわけじゃねえからな」
「私のせいにするんですか!?」
「そうだよ、お前のせいだ」
「もうっ! 師匠がそんなだからデス・ストームなんて変な二つ名をつけられちゃうんですよ! あっ!?」
アースラの言葉にムッとしたシャロは、思わずガリアから内緒だと言われていた二つ名を口にしてしまった。
「デ、デス・ストーム!? それはまた過激な二つ名をつけられちゃったんだね」
「おいシャロ、どいつからそれを聞いた?」
「あ、いや、それはその……」
「吐け、吐かないと明日の修行で死にたくなるほどの地獄を見ることになるぞ?」
「ひっ!? ガ、ガリアさんから聞きました……」
「なるほど、あの野郎だったか、覚えとけよ」
「あ、あのですね師匠、ガリアさんを殺さないでくださいね?」
鬼気迫る感じのアースラにそう言うと、シャロは肩を縮こまらせながら料理がやって来るのを待った。




