第32話・勝利への活路
ベテラン冒険者や実力者を伴った数百人に及ぶ編隊は、約4時間ほどをかけて目的地であるラグナ大陸中央部へと辿り着いた。
「ここがかつて魔王が居た巨大宮殿跡地……」
ウーマ車から降り立ったシャロは所々が大きく崩れ落ちた宮殿を見てそう呟いた。
ラグナ大陸中央部にある朽ちた宮殿、ここは10年前にアースラによって倒された魔王が拠点としていた大陸で、未だ色々な場所に当時の戦いの爪痕が色濃く残っている。
このラグナ大陸はかつて支配していた魔王の凄まじい魔力の影響で力場が大きく変化しており、未だに強いモンスターが生まれやすい場所となっていた。故にそのモンスターたちが成長して他の大陸へやって来ないようにと、3年に一度は大規模なモンスター狩りを行わないといけない状況になっていた。
「当時は魔王の結界でこの大陸に足を踏み入れることすら難しかったらしいけど、こうして足を踏み入れてみると圧倒されちゃうね」
「はい、魔王が倒されて10年も経ってるのに、当時の魔王の力みたいなものを感じますよね」
「だね、これは更に気を引き締めないといけないね」
「そうですね」
――それにしてもなんでかな、ここに来るのは初めてのはずなのに、なんだか懐かしい感じがする。
「ねえシャロちゃん、良かったら今回の仕事、私と組まない?」
「それは願ってもない申し出ですけど、シエラさんはいいんですか? 私なんかとペアで」
「全然問題なんてないよ、むしろシャロちゃんと組んでた方が私は頑張れるよ」
「そうなんですか?」
「うん、守りたいと思える相手が居るとそれだけで気が引き締まるから」
「守りたいと思う相手……分かりました、私もシエラさんと一緒に頑張ります!」
「うん、それじゃあお互いに頑張ろうね」
「はいっ!」
こうしてシャロとシエラは共闘することを決め、いよいよ討伐作戦が開始となった。
× × × ×
かつての魔王宮殿を中心に半径三十キロの範囲で行うことになっている大規模なモンスター狩りが始まってから約20分、シャロはイビルバットの群れを前に苦戦を強いられていた。
「また外した!」
不規則かつ素早い動きを見せるイビルバットの動きに対し、シャロは魔法攻撃を当てることができないでいた。
――範囲魔法を使っても簡単に逃げられちゃう、どうして攻撃が当たらないの?
いくら相手が素早いとはいえ、まともに魔法が当てられないことにシャロは激しい焦りを感じていた。しかも組んでいるシエラは一撃も外すことなく、見事にイビルバットを魔法で撃ち落としている。
――シエラさん凄い、どうやったらあんな綺麗に魔法を当てられるの?
ブルーアイズ・フェアリーという二つ名を持つシエラの見事な身のこなしと戦いを見て焦りが募り、シャロの動きは明らかに雑になり始めていた。そしてそんな心理状態で戦い続けた結果、シャロは雑な動きで放った魔法の反動で体勢を崩して転倒し、そこを一匹のイビルバットに狙われてしまった。
「ライトニングボール!」
体勢を崩したシャロにイビルバットの攻撃を避ける術はなかったが、転倒したのを見逃さなかったシエラの魔法によって難を逃れることができた。
「大丈夫?」
「はい、ありがとうございます」
「どうかしたの、どんどん動きが雑になってきてるよ」
「すみません、敵に魔法が当てられなくて焦ってました」
「敵の動きを見るのは大事だけど、その敵がどう動くのかを予測することも大事だよ」
「動きを予測?」
「攻撃は直線的に行うと回避されやすいけど、その動きの先を読んで攻撃をすればそれだけ避けにくくなるの、こんな風にね」
シエラは周囲を飛び回っているイビルバットの動きを予測し、その進路上に魔法を撃って見事に撃ち落として見せた。
「なるほど、やってみます!」
シエラからアドバイスを貰ったシャロは、改めてイビルバットの動きを目で追い始めた。
――相手の動きをよく見て予測を立てる。
「ライトニングアロー!」
「グギャッ!」
細かく素早い動きを見ながらその動きの先へ魔法を放つと、放った魔法は見事に命中し、イビルバットを地面へと落とした。
「当たった、当たりました!」
「そうそう! そんな感じだよ!」
「ありがとうございます」
「よしっ、それじゃあその調子で頑張ろう!」
「はいっ!」
シエラのアドバイスによってまた一つ戦い方を学んだシャロはそこから怒涛の活躍を見せ、今回の討伐戦において十本の指に入る討伐数を叩き出すこととなった。




