第31話・新たな出会い
アースラを捜している謎の同業者と遭遇しから30日後の夜明け前、アースラは冒険者組合の大規模モンスター討伐作戦に参加するシャロを見送りに来ていた。
「いいかシャロ、何度も話したが今回の討伐作戦はお前が経験したことのない規模になるはずだ。だからいつも以上に周りに気を配れ、決して油断をするな、お前が死ねば救えるはずの命がいくつも潰えることを忘れるな」
「はい」
「よし、それじゃあ無事に生きて帰って来い」
「はいっ、行って来ます!」
こうしてシャロは大規模なモンスター討伐編隊と共に、円形城塞都市リーヤを出発した。
「さてと、俺も出来るだけのことはやったし、アイツもだいぶ度胸が据わってきた、あとはなるようにしかならんか」
長く一対一での戦いを教えてきたアースラだったが、それだけではシャロの目指す多くの者を救う戦いはできない。故にゴブリンの略奪事件後は多人数と一緒に戦うためのノウハウを教え込んできた、その成果が今回の戦いで試されることになる。
「そんじゃまあ、ガリアには頼みを聞いてもらったし、俺は俺でガリアからの依頼をしないとな」
なんだかんだでシャロのことが気になりつつも、アースラはシャロを信じてガリアに頼まれた仕事へと向かった。
× × × ×
目的地に向かって進む沢山の運搬用動物ウーマ車、その中の一台に乗っていたシャロは緊張で大きな溜息を吐いた。
――こんな大規模討伐作戦に一人で参加するのは初めてだけど、本当に大丈夫かな……。
ゴブリンの略奪事件後からアースラと共に多くの実戦に参加し、多人数での戦い方を学んで来たシャロだったが、アースラ不在の状況は相当に不安で緊張するらしく、リーヤを出てからずっと浮かない表情を浮かべていた。
「ねえ、顔色良くないけど大丈夫?」
「えっ!?」
優しい声音の言葉が聞こえ、シャロはその声がする方へと振り向いた。するとそこには長く美しい金髪の青い瞳をした若い女性が居て、心配げな表情でシャロを見ていた。
「大丈夫?」
「あ、はい、大丈夫です」
「そう、それなら良かった。それにしても、あなたくらいの小さな子までこの作戦に参加してるんだね」
「やっぱり珍しいですか?」
「昔と違ってあなたくらいの子が戦いをするのは珍しいことじゃないけど、こんな大規模作戦に出られるほど認められている子は居ないと思うわ」
「そうなんですか?」
「うん、だからあなたは凄く優秀な魔法士ってことだね」
「あ、ありがとうございます」
明るい笑顔でそう言われ、シャロは照れる気持ちと共に少し緊張が解れた。
「ふふっ、照れちゃって可愛いなあ。ねえ、良かったら名前を教えてくれないかな」
「はい、私はヒストリア・シャーロットと言います。シャロって呼んでください」
「シャロちゃんだね、私はシエラ・リース・クロエ、呼び方は人によって違うけど、好きに呼んでくれていいからね」
「分かりました、それではシエラさんと呼ばせていただきますね」
「うん、それじゃあよろしくね、シャロちゃん」
「はい、よろしくお願いします。……あの、シエラさん、ちょっと聞いてもいいですか?」
「うん、いいよ」
「もしかしてですけど、シエラさんて最近アストリアで噂になってるブルーアイズ・フェアリーさんですか?」
「あー、その呼び名ってそんなに広まってるの? 恥ずかしいなあ」
「やっぱりそうなんですね!」
「うん、まあね、でもその呼び名は恥ずかしいから、できれば普通に呼んでね」
「はい、分かりました」
こうして狭苦しいウーマ車の中、シャロは目的地に着くまでずっとシエラとお喋りを続けた。




