第30話・噂話と二つ名
アースラを捜している謎の同業者と遭遇してから2週間後、アースラとシャロは修行の合間に休憩を挟み疲れた体を休めていた。
「そういえば師匠、最近アストリア帝国で活躍してる噂の冒険者が居るのは知ってますか?」
「ほー、アストリアで活躍して噂になるくらいなら結構腕の立つ奴なんだろうな」
「私が聞いた話だと魔法が得意な長い金髪の青い目をした美人で『ブルーアイズ・フェアリー』って二つ名もあるらしいですよ」
「魔法が得意で二つ名もあるなら、相当な実力を持った魔法士だろうな」
「いったいどんな人なんでしょうね、会ってみたいなあ」
「そんなに凄い奴なら慌てなくてもいずれ会う機会はあるだろうさ、お互いに生きてさえいればの話だがな」
「そうですね、師匠はその人に興味ありませんか?」
「別にねえな、そいつがどんな奴だろうと俺が日々やることは変わらんからな」
「……前から思ってましたけど、師匠って女性に興味がないんですか?」
「なんだそりゃ」
「だって師匠、普段から女性に興味がないって感じじゃないですか」
「んなことはねえけどな」
「だったらどうして女性に興味を示さないんですか? 他の男性は興味を剥き出しにしてる人も多いのに」
「あのなあ、お前は欲望と興味剥き出しで女の尻を追いかけてる俺を見たいのか?」
「あ、いや、それは嫌ですけど」
「だったら別にいいじゃねえか、それにそんなくだらないことを気にしてる暇があったら、魔法操作の練度を上げることでも考えろ。今のままじゃ素早い敵や変則的な動きをする敵に遭遇したら、一発も魔法を当てられない可能性だってあるんだぞ」
「は、はい、すみません」
「まあそのブルーアイズ・フェアリーってのがどれだけ強い奴かは知らんが、お前もそいつに負けないくらい強くなれ、そして二つ名で呼ばれるくらいになってみせろ」
「そうですよね、今は他の方を気にしてても仕方ありませんもんね、頑張ります」
「それでいい、さてと、それじゃあそろそろ修行を再開すっか」
「はい! あっ、そういえば師匠にも二つ名はあるんですよね? 聞いたことありませんけど、どんな二つ名なんですか?」
シャロの何気ない質問が飛んできた瞬間、アースラは苦々しい表情を浮かべて眉をひくつかせ始めた。
「ど、どうしたんですか?」
「なんでもない、とっとと修行を始めるぞ」
「は、はい、分かりました」
なにやらただならぬ雰囲気を察したシャロはそれ以上アースラの二つ名について追求しなかったが、修行を終えて夕食を済ませたあとでこっそりと冒険者組合へ行き、そこでガリアからアースラの二つ名が『デス・ストーム』だと聞き、アースラがなぜ自分の二つ名を口にしなかったのかがなんとなく分かった。




