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第29話・同業者

 多くの人々が寝静まった深夜、目以外の部分が隠せる黒のローブをまとったアースラは裏の仕事をする際に使用している乗用獣ガロウに乗り、リーヤから東にある町ナザリアへと向かっていた。


「標的はこの地域一帯を取りまとめる奴隷商人の元締めか、相変わらずこの手の商売をやる奴は絶えないもんだな」


 厚い雲で月明かりもまともに地表に届かない中、アースラは標的の情報を口にして大きな溜息を漏らした。いくら外道悪党を始末しても、そんなやからは次から次へと現れるからだ。

 いつものように憂鬱な気分で仕事に向かっていたアースラだったが、ナザリアの近くでガロウから降りて町へ入り、標的が住んでいる屋敷の前へ辿り着くと、そこにはアースラの予想していなかった光景が広がっていた。


 ――いったい何があったんだ?


 屋敷の前には門番と十数人近い野盗崩れの警備が居ると聞いていたアースラだったが、なぜか全員敷地内の地面に倒れていた。そしてその光景を見たアースラは倒れている者たちへ近づき、素早く鼻と口の近くに手を伸ばした。


「息はないか」


 倒れていた全員が事切れているのを確認したアースラは、普段よりも警戒を強めて屋敷へ向かい始めた。

 そして屋敷までの長い道を歩いて中へと入ったアースラは奴隷商人の仲間や身辺警護をしている者たちと遭遇することを念頭に置いていたが、どこに行ってもあるのは事切れた遺体ばかりで、生きている人間の姿など一人としてなかった。


「ぐわあーーっ!!」


 屋敷の中を探索することしばらく、通りかかった通路の横にある地下階段の奥から男の大きな叫び声が聞こえ、アースラはその階段の奥へと向かい始めた。

 最大限の警戒をしながらゆっくりと階段を下りて目の前にある扉を開けると、そこには体を縦に真っ二つにされた標的の死体が転がっていて、その横にはアースラと同じような目以外を隠せる灰色のローブを纏った人物が立っていた。


「そいつはお前がったのか?」

「そうだよ」


 相手がいつ襲い掛かって来てもいいように警戒しながら問い掛けると、若く可愛らしい声の返答と同時に灰色のローブを着た人物が振り向き、フードの隙間から見える青い瞳でアースラをじっと見つめた。


 ――フードのせいで顔は分からんが、声からするとかなり若いな。


「見たところ同業者みたいだが、その認識で間違ってないか?」

「同業者ってことは、あなたもこの人を狙って来たの?」

「まあな、それにしても、まさか俺以外にそいつを狙ってる組織が居るとは思わなかった」

「私はどの組織にも属してないよ、これは自分の判断でやったことだから」

「アンタは一人で暗殺をやってるのか」

「うん」

「それにしても大した手際だ、あの人数を相手に存在を知られず始末するなんてな」

「どうしてそんなことが分かるの?」

「俺が見た死体は抵抗した様子もなければ、争った様子もなかったからな」

「なるほど、ねえ、良かったら名前を教えてくれないかな」

「おいおい、こういう仕事で同業者と出くわした時はお互いの名前や素性は聞かないもんだぜ、余計な厄介ごとに巻き込まれないためにもな」

「そうなの? こういうことを始めてまだ日が浅いから全然知らなかったよ」

「なるほど、まあとりあえずそういうことだから、俺も気にはなるがアンタの名前や素性は聞かない」

「うん、分かった、それじゃあ私も聞かないね」


 そう言うとその女性はアースラの方へ向かって歩き始め、すぐ横を通り抜けて階段を上り始めた。しかしその女性は階段を上がり始めてすぐに足を止め、アースラの方へ振り返った。


「あの、一つだけ聞いてもいいかな?」

「なんだ」

「アースラ・ティアーズベルって人を知らないかな」

「……いや、知らないな、そいつに何か用でもあるのか?」

「私ね、その人に会って昔交わした約束を果たしたいの、でも知らないんじゃ仕方ないね。ありがとう」


 女性は明るい声音でそう言うと、今度は止まることなくその場を去って行った。


――アイツ、どうして俺を探してるんだ?


 厄介事に巻き込まれる可能性を考えて咄嗟とっさに嘘をついたが、それによって妙な謎を残すことになってしまった。

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