第28話・提案
陽が昇ってしばらくした頃、アースラは視界に入った商店に見知った顔を見つけその中へ入った。
「よお、シノブ」
「あっ、アースラさん、おはようございます」
「最近よく会うな」
「今はリーヤを中心に活動してますからね」
「なるほど、まあ何か困ったことがあったら言って来いよ」
「ありがたいことですけど、アースラさんに依頼をするとすぐにお金が無くなっちゃいますからね」
「依頼なら金を貰うのは当たり前だろ」
「その当たり前に請求される金額が僕にはキツイんですよ」
「まあ少しくらいなら値引きしてやるさ、お前には昔の恩もあるしな」
「昔のこと気にしなくてもいいのに、でもありがたいので、何かあった時にはお願いしますね」
「ああ、こっちの都合にもよるがいつでも言って来い、そんじゃな」
「はい」
シノブと別れたあと、アースラは目的の冒険者組合に再び向かい始めた。
シャロが初めて一人で冒険者組合の依頼をこなして以降、アースラは積極的に冒険者組合の依頼を受け、シャロに集団戦闘時における戦い方を教えていた。そしていくつもの依頼をこなし、シャロが集団戦闘に慣れてきた今、アースラは到着した冒険者組合の個室で一つの相談をガリアに持ち掛けていた。
「――話は分かったが、さすがにそれはキツイんじゃないか?」
「どうしてだ、ここ最近で受けた依頼は全て集団戦闘が前提で、アイツはその依頼を一つずつ着実にこなして来たんだ、それはガリアも知ってるだろ」
「そりゃあ嬢ちゃんの頑張りは知ってるが、あの作戦で戦うモンスターの数や強さはこの辺りの奴らとは比べ物にならない。それはお前も分かってるだろ? それに実力を考えれば、お前に抜けられるのは困るんだよ」
「俺以外にも優秀な奴は沢山居るだろ」
「お前と比べたらその優秀な奴らも霞んじまうんだよ、非常に残念なことにな」
「俺に対する高評価は素直に受け取っておくが、ガリアが何と言おうと俺は今回の作戦に出る気はない」
「おいおい、マジで勘弁してくれよ」
「だから俺の代わりにシャロを出すって言ってんだろうが」
「あの嬢ちゃんに才能や実力があるのは分かるが、それでもまだ時期尚早だと思うがね」
「んなことはねえよ、むしろ他人との協調性がある分、俺よりも適任だと思うがな」
「なるほど、確かにあの嬢ちゃんなら他の奴らとも上手くやるだろうからな、お前と違って」
「あのな、自分で言っておいてなんだが、少しくらいは否定しろよ」
「だったら最初っから言うなよ」
「ちっ、まあとりあえずだ、俺はアイツを次の作戦にどうしても参加させたい。アイツが強くなるために、大切なものを守れる力を身につけさせるために、これはどうしても必要なことなんだ、だからなんとか上と掛け合ってくれ、頼む」
「まいったな」
アースラが頭を下げるのを見たガリアは、非常に困惑した表情を浮かべた。
「……あーもうっ、分かった、分かったから頭を上げろ、お前のそんな姿を見てると不気味でかなわん」
「ちゃんと頼んでるのにずいぶんな言い草だな、だが助かる」
「ったく、とりあえずお前が推薦するなら上も嫌とは言えんだろうが、嬢ちゃんにはしっかり作戦の内容を説明しておけよ」
「ああ、分かってる」
「それにしても、俺にも嬢ちゃんと同じ年頃の娘が居るが、年端も行かない娘が戦いの場へ行くってのは、大人としては歯痒い気持ちになるな。まあ嬢ちゃんにも色々とあるんだろうが、しっかりと面倒を見てやれよ? じゃないと俺が許さねえぞ」
「ああ、それは大丈夫だ、俺はアイツを死なせるつもりはないし、アイツも簡単にくたばるつもりはないだろうからな」「それならいいさ」
そう言うとガリアはスッと席から立ち、上司へアースラの提案を伝えるために個室を出て行った。




