第27話・師匠も頑張ってます(後編)
「シャロさん!」
「どうかしましたか?」
「さっき二匹のゴブリンが森の奥へ逃げて行くのが見えました!」
「森の奥へですか?」
「はい、ですからすぐに追いかけて叩きましょう」
「えっ、このまま追撃するんですか?」
「今なら逃げ去った方向も分かりますし、上手くいけば奴らの住処を見つけて潰すことができるかもしれませんから」
――さっきのゴブリンたちが全滅して焦ってるみたいだな、普通の見分役ならこの状況では絶対に言わないことを言ってやがる。さて、どうするシャロ。
「……分かりました、でもその前に一つ聞きたいんですが、今回のゴブリンによる略奪事件の死者はどれくらい居るんでしょうか?」
「死者ですか? 先ほど言った冒険者三名だけですが」
「略奪を受けた行商人たちに死者は居ないんですか?」
「はい、居ません」
「……なるほど、お時間を取らせてすみません、逃げたゴブリンを追い掛けましょう」
「はい、それでは急ぎましょう」
そんなやり取りが終わるとラニーは先頭に立って森の中へ入り、シャロはそのあとを追うようについて行った。
「シャロのやつ、何か考えでもあるのか? それともラニーの怪しさに気づいてないのか?」
ラニーの意見を受け入れたシャロの思考が読めず、アースラは渋い表情でそのあとを追跡し始めた。そして二人の後を追うことしばらく、アースラは森の奥で止まった二人に近づき、再びその会話に耳を傾けた。
「洞窟の前に見張りのゴブリンが二匹、どうやらあそこが住処みたいですね、シャロさん」
「そうですね」
「それではシャロさん、あとはお任せします」
「分かりました、今から再準備をして住処に奇襲をかけます。身体力強化、魔法抵抗力強化、状態耐性強化」
「気をつけてくださいね」
「はい、あっ、もしもこの森に伏兵が居たら危ないので、ラニーさんにも強化魔法をかけておきますね」
――疑似魔法を使ったってことは、ラニーを警戒してはいるみたいだな。
シャロがラニーを警戒していることが分かったアースラは、見事に見張りを倒して洞窟の奥へ入って行くシャロに続いて中へと入った。
「ナイトアイ」
シャロの使っているスターライトボールを使うわけにはいかないアースラは、別の魔法を使って洞窟内を進み始めた。そして何事もなく洞窟の最奥部へと辿り着いたシャロは、そこに鎮座していたレッドキャップと戦闘を始め、アースラはその様子を見ていた。
――シャロ、お前のやりたいことは分かるがレッドキャップの方が速さは上なんだ、そんな逃げ腰の戦い方じゃいつかやられるぞ。
実力が上のレッドキャップを前に逃げる隙を窺っているシャロに対し、アースラは少し焦りを感じていた。このままではじり貧の戦いになり、シャロが殺されてしまうのが目に見えていたからだ。
しかしそんなアースラの焦りをよそにシャロはすぐに気持ちを切り替え、全力でレッドキャップと戦い始めた。
「ライトニングバレット!」
――多角攻撃魔法を使って牽制か、道具袋からフラッシュボムを取り出したところを見ると、アレで隙を作ってレッドキャップを攻撃ってところか。
「ライトニングアロー! ファイアボール! 虹熱線! ライトニングバレット!」
アースラの予想どおりにフラッシュボムを使ったシャロは、目が眩んで動きを止めたレッドキャップへ向けて連続魔法攻撃を始めた。
そして約2分間に及ぶ連続魔法攻撃が終わったあと、シャロは倒れたレッドキャップをライトバインドで拘束し、生死を確かめたところですかさず止めを刺そうとしたが、その行為はやって来たラニーの魔法攻撃によって阻止されてしまった。
「ラニーさん、今のはどういうことですか?」
「どうもこうも、そいつに止めを刺されると困るのよ、戦えないフリをして金儲けをしてた私の計画が水の泡になるからね」
「なるほど、そういうことでしたか、今ので色々と謎が解けました」
そこからシャロは上手く話を進めながらラニーに真実を話させ、最終的に仕掛けていたフェイクマジックによるライトバインドでラニーを拘束した。
「よっし! お仕事完了!!」
虫の息だったレッドキャップに止めを刺したあと、シャロは拘束したラニーを連れて洞窟を出て行った。
「やれやれ、一時はどうなるかと思ったが結構やるじゃねえか。それにしてもアイツ、いつの間にあんな連続攻撃が出来るようになってたんだ? おそらく2分くらいだったと思うが、あれだけの連続攻撃を続けるなんて誰にでも出来るもんじゃねえぞ」
ボロボロになったレッドキャップの遺体を見ながら、アースラはシャロの底知れない力に驚きを隠せないでいた。




